自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その20):処理水準

定義: 「認知機能は、入力情報の感覚的、物理的な分析を行う「浅い」水準から、抽象的、意味的、連想的な分析処理を行う「深い」水準へと階層的に構造化されている」「深い処理を行う方が(その単語の)保持成績は優れたものになる」(『心理学辞典』(有斐…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その19):同化と調整

定義: 「同化とは環境を自分のなかに取り込む働きであり、調整とは自分を環境に合わせて変える働きである」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 622)。 行動分析学的解釈: 同化とは、既習の行動レパートリーが新奇な刺激に対し自発され、強化される、刺激般化…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その18):反転図形(多義図形)

定義: 「客観的には同一の図形でありながら、知覚的には二つあるいはそれ以上の形が成立する図形(『心理学辞典』(有斐閣), p. 708)。 行動分析学的解釈: 複数の異なる随伴性で弁別刺激となり、異なる行動を誘発させうる刺激。どちらの(どの)刺激性制…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(番外編): 行動分析学の概念を他の心理学から解釈することは可能なのだろうか?

法政心理の大学院入試で出題する可能性のある用語(法政心理キーワード)を行動分析学の概念に翻訳しているこのシリーズですが、ふと、三つのことを思いつきました。 ひとつめ:はたして逆はあるのだろうか? すなわち、行動分析学の概念を他の心理学から解…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その17):睡眠

定義: 「持続的な意識消失と、全般的な身体機能の低下状態であり、覚醒と対をなして周期的に生じる脳の生理的な活動様態である」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 464)。 行動分析学的解釈: スキナーは Science and Human Behavior で、睡眠を、周期性をも…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その16):愛着(理論)とストレンジ・シチュエーション法

定義: 愛着:ボウルビィが定義した赤ん坊の母親に対する特別な情緒的結びつき(『心理学辞典』(有斐閣), p. 4)。 ストレンジ・シチュエーション法:エインズワースによる愛着の質を測定する実験法(同, p. 476)。 行動分析学的解釈: 分離場面で泣く 母…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その15):フラッシュバルブメモリー(フラッシュバルブ記憶)

定義: 「劇的で‘感情’を強く動かされるような重大な出来事について、初めて知らされたときの状況を鮮明かつ詳細に想起する‘記憶’をさす」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 756)。 行動分析学的解釈: この現象の例として取り上げられるのがジョン・F・ケネ…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その14):ラポール

定義: 「心理療法において治療者とクライアントの間に存在する人間関係をさす。(中略)治療者は親密で暖かい感情の交流をもつように心がけることが大切であり、ラポールが治療の第一歩である。(中略)受容的態度によって治療に有効なラポールが形成される…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その13):カクテルパーティー現象

定義: 「特定の情報に選択的に注意を向け、他の情報を無視することができるという現象」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 114)。 行動分析学的解釈: ざわつくパーティー会場のどこかで自分の名前が会話に登場すると、それに気づき、その会話だけがよく聞こ…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その12):ホーソン実験とホーソン効果

定義: ホーソン実験とは「1924年から32年にかけてシカゴのウェスタン・エレクトリックのホーソン工場で実施された一連の研究」(『組織行動のマネジメント』p. 176、S. P. ロビンス、ダイヤモンド社)である。適度な照明などの労働環境を科学的管理法の視点…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その11):ピグマリオン効果

定義: 「人は他人に対していろいろな期待をもっている。意識すると否とにかかわらずこの期待が成就されるように機能すること」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 715)。 この現象については、ローゼンソールとジェイコブソン(1968)の、教師を対象に生徒た…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その10):両眼視差と奥行き知覚

定義: 「左右単眼像のずれを両眼視差、この情報を利用した相対的奥行き知覚を、両眼立体視という」(『キーワードコレクション 心理学』(新曜社), p. 88)。 行動分析学的解釈: 奥行き知覚とは事物への距離がその事物に対する行動を制御する刺激性制御で…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その8の番外編):チンパンジーのメタ認知

Twitterで流れていて面白そうだったので、Beran et al. (2013)を読んでみた。Michael J. Beran, M. J., Smith, J. D., and Perdue, B. M. (2013). Language-Trained Chimpanzees (Pan troglodytes) Name What They Have Seen but Look First at What They Ha…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その9):プライミング

定義: 「先行刺激の受容が後続刺激の処理に無意識に促進効果を及ぼすこと」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 754)。 行動分析学的解釈: 条件刺激、無条件刺激、弁別刺激、確立操作、プロンプトなど、特定の行動や行動群を誘発する機能をもった刺激は、その…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その8):メタ認知

定義: 「認知過程に関する知識、自己の認知状態やその過程の評価、認知過程や方略の実行制御、認知活動に関連した感情的評価といった広範囲な心的事象」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 831)。 行動分析学的解釈: 「自分は情に流されやすい」や「早とちり…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その7):視野闘争

(出典:How to Create and Use Binocular Rivalry) 定義: 「実体鏡などにより、実験的に両眼の対応部にある程度異なった対象を同時に呈示すると、同時に二つの対象が知覚されることは少なく、両対象が片眼に交互に現われたり、部分的に重なりあって現われ…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その6):防衛機制

定義 危険や不快な状況、内的な衝動を満足できないときに、自己を守ろうとする、無意識的な手段(『キーワードコレクション心理学』(新曜社), p. 232-235)。 精神分析の用語であり、“心理学の基礎概念”と言えるかどうかは定かではないが、臨床におけるさ…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その5):展望(的)記憶

定義 “今より先の時点で、あるアクションを起こしたり‘プラン’を実行することを覚えている記憶”(『心理学辞典』(有斐閣), p. 619)。 行動分析学からの解釈 「駅までの道のりの途中にある郵便ポストで葉書を投函しよう」というようなルール(「A:後でポ…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その4):達成動機

定義 “卓越した目標を設定し、困難を克服しながら、それを成し遂げようとする動機”(『キーワードコレクション心理学』(新曜社), p. 217)。 行動分析学からの解釈 他者にはできないことができたり、自分にできなかったことができるようになったり、最初は…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その3):自尊感情(self-esteem)

定義 “自分自身を全体として肯定的に評価することであり、人間が心理的に充分に機能するための基盤を支えるもの”(『心理学』(有斐閣), p. 330)。 “自己に対する評価感情で、自分自身を基本的に価値あるものとする感覚。(中略)自尊感情は、その人自身に…

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その2):スキーマ

定義 過去の経験を元に構造化されている認知的枠組みのこと。バートレットによる物語の伝聞を使った古典的な研究にみられるように、人は与えられた情報をスキーマに基づいて理解し、つじつまがあうように再体制化して記銘し、再生する(『心理学』(有斐閣)…

シリーズ化? 行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その1):マガーク効果

法政心理の大学院入試の用語問題には、心理学の基礎的な概念が出題されます(法政心理キーワード)。 うちのゼミで試験勉強中の研修生の発表(勉強した用語をゼミで解説する)を聞いていて、こうした概念や用語を行動分析学から解釈していくのも面白そうだな…