自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その7):視野闘争

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定義:
 「実体鏡などにより、実験的に両眼の対応部にある程度異なった対象を同時に呈示すると、同時に二つの対象が知覚されることは少なく、両対象が片眼に交互に現われたり、部分的に重なりあって現われたりする」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 379)。

行動分析学的解釈(前試案段階):
 我々の「見る」行動は両眼に提示されたほぼ同じ刺激か、単眼に提示された刺激の刺激性制御を受けるように強化されてきた。系統発生的な選択の過程により、そもそも両眼に異なる刺激が提示されたときにそれを同時に別々に「見る」オペラントは両立しないようになっているのかもしれない。どのようにそうなっているかは神経生理学的な研究による検討対象となるだろう。あるいは個体発生的な選択の過程(すわなち学習)でそのようなオペラント(左右に異なる刺激が提示されたときにそれをまとめて一つの刺激として反応すること)が強化される機会がなかったということなのかもしれない。そのようなオペラントを強化できるかどうかを検討した実験があるのかどうか私は知らないのだが、両眼にそれぞれ呈示する刺激の内容によって知覚される時間に差があるという実験報告もあるようなので、もしかすると少なくとも時間配分についてはオペラント的制御を受ける可能性があるのではないかと予想する。
 魚類のように、両眼視野と独立した単眼視野の両方を使って生きている生物でも視野闘争は起こるのだろうか? ヒトでも視覚に比べれば左右で異なる刺激が同時に提示されることが多そうな聴覚ではどのようになるのかと、この分野はよく知らないだけに興味津々。

参考サイト: How to Create and Use Binocular Rivalry

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