自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

もしドラッカーが行動分析家だったら:ドラッカーの名言を行動分析学から解釈する(その8) 「成果をあげることは習慣」

名言〔第23位〕:「成果をあげることは習慣」

解釈:
 「成果をあげるのは才能ではない」〔第25位〕にもあったように、組織で成果をあげるために必要な仕事はすべて学習可能な知識や技術--すなわち「行動」--である。成果をあげるために必要な仕事は複雑で、習得の程度に大きな個人差があるため「能力」とか「人格」とかに帰属されがちだが、必要な仕事を丁寧に課題分析してみれば、それを構成している一つひとつの行動は実は意外に単純であるということ。
 もちろん、そのような課題分析をすることはそれほど簡単ではないし(課題分析をする知識や技能をもった人的資源、時間などが必要になること)、学習は“可能”であっても、学習にかかる時間(コスト)が発生することなどを考慮すれば、成果があがらない理由を「能力」や「人格」などのヒューマンファクターとして片付けてしまいがちな事情も読み取れる。「できない奴だなぁ」とか「礼に欠ける」などのタクトは「そうですよね」などの共感的反応で強化されがちだし、“リストラ”という文脈では標的となった人を解雇したり、配置転換することが強化される。しかし、こうした個人攻撃の罠にまみれた解決策は短期的な成果しか生まないのは、実は誰の目にも明らかだったりもする。
 遠回りのように見えても、必要な行動を洗い出し、それが学習され、強化される行動的環境を整備することが、成果をあげる行動を“習慣化”させるベストプラクティスである。

本シリーズの過去記事一覧:

第24位:「リーダーとは何か

第25位:「成果をあげるのは才能ではない

第26位:「組織の存在意義

第27位:「組織は戦略に従う

第28位:「利益とは目的ではなく条件

第29位:「理論は現実に従う

第30位:「総体は部分の集合とは異なる