自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その17):睡眠

定義:

「持続的な意識消失と、全般的な身体機能の低下状態であり、覚醒と対をなして周期的に生じる脳の生理的な活動様態である」(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 464)。

行動分析学的解釈:

 スキナーは Science and Human Behavior で、睡眠を、周期性をもつ特殊な行動と捉えられないことはない(1953, p. 155)と述べていたが、それ以上の詳しい解釈はしていない。睡眠について行動分析学から研究を進めている Blampied & Bootzin (2013)は、睡眠そのものは周期的に生じる生理的な状態と捉えた方が生産的であるとし、さらにその状態を以下のように定義している。

  1. 中枢からの制御により運動(顕現的行動)の範囲や強度が大きく制限される。
  2. 同時に、中枢での神経活動、夢、新陳代謝などの内的な活動(非顕現的/内潜的行動)は行われている。
  3. さらに、それが成熟、発達、学習、脳機能の維持などに必須である。
 Blampied & Bootzin (2013)らは、睡眠につながる行動連鎖の中で、たとえば横たわる行動を最終的な好子(入眠/睡眠)の完了行動(consummatory behaviour)とし、行動連鎖の中で完了行動の弁別刺激がうまく機能しないと不眠の問題が生じるとしている(従って不眠治療でも刺激性制御をつけることを重視する)。また、覚醒時間など、睡眠の好子としての機能に影響する条件を確立操作として分析することの有効性も指摘している。

 以上を踏まえ、よくある質問に答えてみる:

Q: 睡眠は行動ですか?
A: いいえ。睡眠そのものは顕現的な行動の自発頻度が大きく低下した状態と考えた方がよさそうです。ベッドに入るとか横になる、目をつむるなどの行動は、入眠につながり、睡眠で強化される行動であると考えられる。

Q: 睡眠は好子ですか?
A: はい。生得性好子であると考えられます。睡眠につながる行動、横になるとか目をつぶるとか、カーテンを閉じて照明を消すとか、人によってはアロマをたくとか、そういう行動がもし入眠につながれば強化されるという意味で好子ですし、他の好子との対提示が必要ないということから生得性の好子であると考えられます。ただし、「眠気」がいつも好子として機能するかと言えば、たとえば仕事が残っているときや渋滞の中運転して帰らなくてはならないときなどは、弱化の弁別刺激にもなり、コーヒーを飲んだり、大声で唄ったりすることで眠気を消す行動が強化されることもあります。

Q: 睡眠を好子として機能させる確立操作にはどのようなものがありますか?
A: 覚醒、夕方から夜にかけての運動、体温の変化(床につくまえにお風呂に入る)などがあります。睡眠導入剤睡眠薬などはお医者さんに相談の上で。

Q: 夢を見るのは行動ですか?
A: 夢は睡眠中に自発される非顕現的/内潜的行動の一種ですから、行動です。外界との接触がほとんどなく、随伴性は夢の中だけで、覚醒時に比べると強度も弱いと考えられ、このため覚醒時の思考に比べて、不安定で非連続的な展開をするのはないでしょうか。

Q: 起床は行動ですか?
A: 目が覚めるという意味での起床は、睡眠から覚醒への状態の変化であると考えられますが、覚醒状態になるということは、様々な顕現的な行動の自発が始まるということなので、たとえば見る、聞くなどの行動の自発頻度が一斉に上がることになります。なお、朝起きれない人が起きれるようにする介入を考えるときには、目が覚めないないのか、目が覚めても動かないのか、動くけどベッドからでないのかなど、問題の在処をまず特定する必要があります。

引用文献

Blampied, N.M. & Bootzin, R.R. (2013). Sleep—A behavioral account. In G. Madden (Editor-in-chief). Handbook of Behavior Analysis Vol 2. (pp 425 – 453). Washington, DC: American Psychological Association.

Skinner, B. F. (1953). Science and human behavior. Oxford England: Macmillan.

本シリーズの過去記事一覧: