自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その2):スキーマ

定義
 過去の経験を元に構造化されている認知的枠組みのこと。バートレットによる物語の伝聞を使った古典的な研究にみられるように、人は与えられた情報をスキーマに基づいて理解し、つじつまがあうように再体制化して記銘し、再生する(『心理学』(有斐閣), p. 94、『キーワードコレクション心理学』(新曜社), p. 184-187) 。

行動分析学からの解釈
 人は与えられた刺激に対し、これまでにその刺激やそれに類似した刺激に対して自発し、強化された行動(オペラント)や条件づけられた行動(レスポンデント)を自発する。誘発された行動はひるがえって弁別刺激や確立操作となり、その他の関連する行動を誘発していく。強化や条件づけの履歴はある文化や世代などで共有されていることが多いから、実験者が意識する/しないに関わらず、実験参加者の反応は、実は実験者が提示した刺激(S+やS-)によってのみ制御されているわけではなく、こうしたこれまでの強化歴に影響されて出現する、その他の刺激との多重制御になっていることに注意すべきである(S+はSdと同一ではないということ)。バートレットの実験などからわかることは、こうして誘発される派生的な行動同士が主題的に一致する場合(刺激等価性が確立している場合)に派生的な行動は強化されるが(つまり後で再生されやすい)、主題的に一致しない行動は、そもそも矛盾するタクトやイントラバーバルの自発が抑制される、もしくは自発されても強化されにくいということだろう。これは、見たり聞いたりしたことを後で報告するときの強化随伴性が、一般的には“つじつまがあう”報告を強化するようになっていることの影響であり、その随伴性が変われば、それにあわせて刺激の“処理”も変容するのではないかと予想される。たとえば矛盾する情報があればそれを発見し、報告する行動を強化する条件を導入すれば、“無意識的に記憶が変容される”ことなしに、ありのままに報告するようになるかもしれない。こうした条件性弁別が確立したとすれば、それは新たな「スキーマ」と呼ばれるのだろうが、行動分析学からすれば、それは文脈刺激による条件性の刺激性制御ということになる。

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