自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

はるがきた:やんちゃな小犬の子育日記(その6)お留守番

「はるちゃん、いい子ですね。おとなしいし、かわいいし」と、あちこちで言われます。めちゃ、嬉しいです(←親バカ  笑)。

散歩中、他の犬や人に吠えることはまずないですし、犬を散歩させている飼い主さんには安心して近寄って行って愛想を振りまきます。病院やトリミング(シャンプー)で体に触られてもじっとしているので、落ち着いた、静かな性格の犬だと思われるのかもしれません。

そもそも佐良先生や山本先生がはるを勧めて下さったのも、元々持っているそういう特性によるものだそうです。他の犬が吠えていても吠えない。人に触られても嫌がらない。飼いやすい犬です。

でもそれは、そういう特性があるから「吠えない」というわけではありません。

うちに来てから一ヶ月くらいは、ほんとうに大変でした。最初は私がトイレに行くのに一瞬姿を消しただけでも吠えてましたし、宅配や来客にも当然のように吠えていました(関連記事)。

自分がいなくなったときの吠え方は尋常ではありませんでした。背中を反らせ、遠吠えのように鳴くのです。近所の皆さまへご迷惑をおかえしてしまうという心配もありました。さっそく菓子折りをもってお詫びに回りましたが、冬ということもあって皆さん窓を閉めておられるせいか「聞こえないですよ」と言われ、安心しました。

それよりなにより、はるの鳴き声を聞くと、胸が痛むのです。初めての体験でした。犬の鳴き声で、まるで棒のようなものをぎゅっと押し付けられたような感触を胸のあたりに覚えるのです。

辛くて反応してしまいそうになります。サークルの中のはるを見たり、可哀想だからとサークルからだして、抱きかかえてあげたくなります。

でも、それをやったら鳴きを強化してしまうのが目に見えています。

ここは山本先生ご指導どおり「消去」を徹底するしかない。そう頭でわかってはいても、辛い。ほんとうに辛かったです。

とにかく、4月の新学期までにお留守番ができるようにする必要がありました。

当時のビデオが残っていますので、ここに公開します(留守中のことが心配だったので、USBカメラで留守中の家の様子をずっと録画していました)。

まずは、うちにきてすぐの頃。この頃はずっとサークルの中で過ごさせていました。私がいなくなると絶叫マシーンと化していた頃です。

完全な消去、つまり、いくら鳴こうが放っておくという作戦は犬にも厳しい介入ですが、それ以上に飼い主にとって我慢が必要になる介入です。その辛さに耐えられなかった私は、もしかしたら余計なことを、色々とやってみました。

・着替えて/鍵をもって/鞄をもって(つまり外出するときの刺激要素を加えて)、一瞬だけ居間をでて、すぐに戻る。
・戻るときに鳴いていたら、鳴き止んでからしばらくするまで(当然60秒ルールにもとづいて1分は待って)から戻る。
・少しずつその時間を長くしていく。
・トイレ/風呂/ゴミ捨て/買物などで、本当に留守にするときには、玄関や居間に入る前に、はるが鳴いているかどうかを確認して(上記のUSBカメラを家の中のLANに接続し、リアルタイムで見て聞けるようにしました)、鳴いていないときに入室する。

などなどです。

それでもやはり、外出すると、遠吠え状態になります。遠吠えは最長で4時間くらい続いていました。ビデオを見ることで、私の胸はいよいよ痛みました。

ある日、玄関の外でライブ映像を見ていると、興奮したはるがサークル内で暴れ回り、クレートの屋根に飛び乗り、その反動でサークルを飛び越えてしまいました。

このときばかりは急いで部屋に入り、怪我していないかどうかを確認しました。

完全「消去」の放置状態が許されるのは、そうしても危険がないときだけです。

安全確保のため、クレート上部にサークルの柵を付けたしました。下は1週間ちょっと経ったときの映像ですが、まだ吠えています。

2週間経つと、遠吠えはかなり減りました。下の画像をみるとわかるように、出かけてもすぐに吠えだすことはなくなりました。それでも、サークルの中で居間のドアの方をずっと見ています(擬人的に言えば「早く帰ってこないかぁ〜」でしょうか)、それに、留守中に宅配の人がピンポンと呼び鈴を押すとそれに対して吠え始め、それが延々と1時間以上続きます。つまり、吠えは減ったけども、まだ安心してお留守番できるところまでは達していません。

1ヶ月経つと、呼び鈴さえなければ吠えないでいられるようになりました。下の動画ではわかりにくいのですが、サークルの中のクレートで寝て過ごす時間も増えました(擬人的に言えば「そのうち帰ってくるから寝て待とう〜」でしょうか)。

犬のしつけ本の多くには、出かけるときにやたら可愛がったり、挨拶したり、でかけるということが犬にわかるようなキューをだしたりしてはいけないと書いてあります。

だから最初は私も無言で、できるだけ気づかれないようにささっと出かけていました。それが、はるも落ち着いて、私も留守の間にはるが鳴いている様子を想い出したり、思い浮かべたりして胸が痛むことも少なくなってきたこともあってか、「言ってくるよ」とか「お留守番よろしく」とか言いながらでかけるようになりました。もちろん、帰ってからビデオを確認し、それでも大丈夫だとわかったからです。

「言ってくるよ」と言わなくても、鞄を持ったり着替えたりすることで、どうせはるにはそれがわかるとわかったということもあります。それから、これは何となくで、何も証拠はないのですが、たとえば、居間からではなく寝室からでかけてみると(つまり、でかけることがはるにわからないようにしてでかけると)、帰ってきたときに怒っているような気がするのですね(笑)。いつもは帰宅すると尻尾どころか腰全体を左右に振って喜んで出迎えてくれるのですが、そういうときには前脚で私を突き飛ばすような動きをすることがある、そんな気がするのですよ(笑)。

そういうこともあって、今では出かけるときには歯磨きガムをあげています。そのときにしかあげないので、わざわざお留守番のキューをだしていることになります。食べ始めたところを確認してから「行ってくるよ」と声をかけています。1−2時間のお留守番のときと、5−6時間以上のお留守番のときではガムの種類を変えています。大好きなガム(グリニーズ)は長い時間のお留守番のときです。

いざ出かけるとき(鞄を持って居間の奥の書斎をでるとき)には、今でも時々「きゅーん」と寂しそうな声をだすときがありますが、それでもグリニーズをだすと、そっちに気を取られ、欲しがり、お座り、伏せ、まってをさせると、もうお留守番ことは気になっていないようです(さすが犬です 笑)。

以下が最新の画像です。去年の7月くらいにサークルは撤去し、クレートだけ残してあります。在宅中も留守中も、居間・書斎は自由に動けるようになっています。ガムを食べたあと、少し部屋の中を散歩したりしていますが、そのうち座椅子やクッションの上や、陽がさしてぽかぽかする床の上とかに移動しては寝ています。今では宅配のピンポンの音に吠えることもありません(これについてはまた別途書きます)。

結論。うちの場合(あくまでうちの場合です)、お留守番の練習は、鳴きや吠えを消去すること、留守番の時間を徐々に長くすることで、うまくいったと思います。消去をするときにはバーストがでますから、騒音対策(もしくは近所へのお詫び)、暴れても怪我をしないような配慮(うちの場合、興奮してもサークルからは出られないようにしたこと)、外出のときだけではなく、家の中で移動するときにも、はるの視線から自分がいなくなって鳴いているときには絶対に強化しないようにすることが重要だったと考えます。

逆に言えば、そうした手続きを踏まなければ、今でもはるは遠吠えし、今でも私は外出するたびに胸を痛めていることになったと思います。偶発的に吠えを強化してしまいそうな瞬間は山ほどありましたから。