自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

はるがきた:やんちゃな小犬の子育日記(その10) 玄関のピンポンに吠えるのを止める

 元々、シェルターで何十頭もの犬や猫や馬や亀と暮らしていたときも、ほとんど吠えなかったらしい、うちの犬ですが、玄関のチャイムに対してはすぐに吠えるようになってしまいました。

 経緯は覚えていないのですが、おそらく最初は来客に対して吠え、次第に、あるいは直に(←残念ながらこのあたり覚えていません。記録もとっていません)、来客前のチャイムに対してガン吠えするようになったように思います。もしかすると、ごくごく最初の頃は、吠えに対し「大丈夫だよ」とか声かけをしていたかもしれません。

 うちの場合、マンションの集合玄関で一回、うちの玄関でもう一回チャイムがなります。これは次第にそうなったと思うのですが、最初のチャイムでは吠えず、玄関のチャイムで確実に吠えるようになりました。

 来客といっても、頻度からすると、うちの場合、ほとんどは宅配やピザやカレーのデリバリーなどの業者さんです。友人がうちに上がって滞在する場合も吠えていましたが、これは部屋にあがってもらってからしばらくすれば(15-30分)止まりました。よく遊びにくる友人にはそのうち慣れ、尻尾を振って出迎えるようになりました(自分が出張中に留守番を頼む何人かの友達には私以上になついているように見えるときさえあります)。

 部屋に上がってくる業者の数や回数は少ないので(年にせいぜい数回)、これについては特になにもしないことにしました。同じく年に数回しか遊びにこない友人への対処もとりあえずおいておくことにしました。

 というわけで、目標は、宅配業者とその前兆であるチャイムへの吠えを止めることとしました。何しろ、玄関のチャイムだけでなく、テレビから流れてくる同じようなチャイムにも吠えるようになってしまっていたので、かなり煩く、かなり近所迷惑になると思ったので。それにしても、なんでチャイムってどこもかしこも同じなんでしょね。

 山本先生には、吠える前にフードをばらまくこと、宅配業者に頼んでフードを投げてもらうこと、というご助言をいただきました。うちの場合、玄関から廊下に上がるところにベビー用品のフェンスがあり(万が一、いきなり外へ出てしまうのを防止するためです)、廊下から居間にドア、ドアをあけると台所で、台所と居間の間にやはりベビー用品のフェンスが設置してあります(これは台所でこぼしたものやゴミ箱の中のものをはるがむやみに食べないように防止するためです)。なので、業者さんにフードを投げてもらっても届かないし、届く廊下まではるを連れて行くと余計に吠えそうだし、忙しい業者さんにそんなことを頼むのも気が引けるので、とりあえず最初の助言だけを実行しました。

手順としてはこんな感じです。

1. 最初のピンポーン(マンションの玄関)
 吠えないことが多いが、フードを二つかみ準備する(& 宅配の場合、受取の印鑑を準備する)。
2. 2回目のピンポーン(うちの玄関)
 一つかみめのフードをばらまく(う〜とうなりだしていても、吠える前に)。
3. フードを食べているうちに玄関に移動し、用をすませる。
 この間、吠えだすこともあるが、それに対しては反応しない(「静かに」とか「うるさい」とか言わない)。
4. 居間に戻ってきたら、宅配の荷物を見せ、フードをあげる。
 これは山本先生からの助言にはなかったところですが、当初、段ボールの小包にも吠えることがあったためです。また、吠えがほとんどなくなってからは、玄関から戻ってくるまでに吠えなければフードを与えることにしました。好子出現阻止による弱化の随伴性を狙ってですが、作用したかどうかはわかりません。

 そして、もう一つ。レスポンデントにしろ、オペラントにしろ、吠えるのを止めるには、吠える機会を増やさないとならないと考え、

5. 宅配の頻度を増やし、かつ、できるだけ自分が在宅していて上記の手順を実施できるときに来てもらうようにしました。
 Amazonのプライム会員になれば、原則、送料無料です。だから、まとめ買いはせず、おやつ買ったら精算、おもちゃ買ったら精算、本買ったら精算...というふうにすれば(そして準備ができたものから順次発送と指定しておけば)、発送回数を増やせます。楽天ではお届けの日時を指定できます。いつもなら近所のスーパーなどで買う炭酸水や洗剤や食料品などもネットで購入することで、一日2-3回、一週間3-4日、おおよそ週で10回くらいの配達の機会を吠えるのを止める機会として活用できました。

 最初のうちはばらまいたフードを食べずに吠えていたり、フードは口に入れながらゴホゴホしながら吠えていましたが、2-3ヶ月でほとんど吠えなくなりました。時折、思い出したように吠えることもありましたが、以前のように、吠えながら興奮していき、どんどん吠えが大きくなるということはありませんでした。

 半年くらいしてからはまず吠えなくなったので、今はフードの提示をしていません。吠えるとしたらピザやカレーの宅配を頼んだときです。これは原因が匂いにあるのか、商品や支払の手続きで時間がかかったり会話が生じるからなのか、宅配業者さんはほぼいつも同じ人たちなので匂いを覚えてしまったがピザやカレーは頻度が低いし、いつも違う人なので学習が進まないのか、よくわかりません(それを確かめるには毎日ピザやカレーを頼めばいいわけですが....  ^^;;)。

 ピザやカレーの場合も吠えるときには前兆行動を示します。それまでクッションで寝ていたり、クレートの中にいたりしたのが、玄関にむかうドアの方に歩いて出てきます。うなることもあります。こうした前兆行動がはっきりしているときには吠える前にフードを投げています。でも、ピザやカレーの宅配がきても、ずっと寝ていることもあり、一貫していません。

 そもそもチャイムに対してガン吠えするようになってしまったのが、見知らぬ人への不安なのか、住処への侵入への警戒なのか、たまたま吠えたのを私が強化してしまったのか、その複合体なのかはよくわかりません。
 散歩中、見知らぬ人にはおびえ、手をだされたら逃げるような臆病な性格ですが、それでも散歩中、人に対して吠えたことはありませんでした。なので、純粋に不安だけで吠えているとは思えなかったです。

 一度、吠えるようになったら、私が声かけをしなかったとしても色々な強化随伴性が生まれます。玄関のピンポーンでは私が立ち上がって移動します。はるが吠えるから移動するわけではありませんが(因果関係はありませんが)、随伴関係は成立します。吠える→飼い主が動く、という随伴性です。

 ずっと吠え続ければ、そのうち業者は用が済んでいなくなります。吠えたからいなくなったわけではありませんが(因果関係はありませんが)、吠えた→見知らぬ人の気配、音、匂いがなくなる、という随伴関係は成立します。宅配の時間設定をできるだけして、留守中にピンポーンがなる回数をできるだけ減らしたのは期せずしてこういう偶発的な強化が起こることを避けるためでもありました。

 今でも火災報知器の検査の人など、見知らぬ人が部屋に入ってくると吠えます(以前に比べれば声もずっと小さく、興奮も弱くなっていますが)。そのことからすると、見知らぬ人全般や住処への侵入全般に対する不安反応が拮抗条件づけで減ったというわけでもなさそうです(少なくとも般化はしていない)。もしかすると、単純に繰り返して不安を喚起する刺激を提示していて馴化したのかもしれません。フードにはその曝露療法的な渦中、強い情動反応を抑えるという効果があったのかもしれません。

 機序はわかりませんが、玄関のピンポンにも(テレビのピンポンにも)、宅配業者さんにも吠えなくなったので、方法論としては成功です。

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