自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

はるがきた:やんちゃな小犬の子育日記(その9)排泄の間隔を徐々に延ばす

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 中学生の頃、実家でマルチーズを飼っていました。成犬を譲渡してもらった犬で、名前は「ルナ」。

 あの頃は、行動分析学も知らなかったし、しつけの本を読みあさるってこともなくて、たまたま図書館でみかけたしつけの本に書いてあったことをやってみてました。本に書いてあることを疑うこともないナイーブな少年だったわけです(笑)。

 排泄に関しては、失敗したら粗相をしたところに犬の鼻をなすりつけて「ダメ」と叱るという手続きだったと思います。

 今ならこれがどれだけ間違っているか、なぜ間違っているかもわかりますが、当時は盲目的にそうしていました。それに昔の日本ではこの方法がある程度一般的だったようですね。30年以上も前のことですが。

 はるがうちに来る前に、犬のしつけ本をたくさん読みました。ほとんどの本に、こういう昔ながら方法は間違っているとはっきり書いてありました。子犬に対する排泄訓練法は、どの本を読んでもほぼ同じ。定時で(おしっこしそうなときを見計らって)トイレシーツなど、排泄させる場所に移動させ、排泄したらフードで強化、しばらくしてもしなければ元に戻し、しそうになったらまた移動というもの。アズリンが開発した人の子ども用のトイレットトレーニングと原理原則は同じです(ちなみにアズリンのトイレットトレーニングの日本語訳『一日でおむつがはずせる』、残念ながら絶版のようですが、Amazonでまだ古本が手に入ります:この記事の最後にリンク)。

 昔ながらの方法が間違っている理由も、叱るだけだとどこでおしっこすればいいのか教えられないとか、そもそも排泄してから時間が経ち過ぎていたら叱っても何で叱られているかわからないとか(60秒ルールの"認知的"解釈ですね)、下手に叱ると注目獲得になってしまってわざわざ色々なところでおしっこすることを増やしてしまうとか、あるいは飼い主から隠れてするようになるとか、どれも納得のいくものです。

 はるが来たら、まず排泄訓練をしないとならないのだろうなぁと身構えていたのですが、ラッキーなことに、AFCのスタッフさんたちによる訓練で、排泄はお散歩に行ったときにお外でするということをすでに学習してくれていました。何冊かの本には「和犬は家の中で(すみかの近くで)排泄したがらない」と書いてありました。はるが和犬かどうかは不明なのですが(1/16くらいでパグが入っていることしかわからず、15/16は不明)、訓練のおかげで、今まで室内で粗相してしまったのは数えるくらいしかありません。その数回も、下痢で我慢できなかったり、遊びに来た奥田先生にびっくりしてちびったり、寝室の布団が変わったり(一回だけ)と、ほぼ特異な要因を推定できるものばかりです。

 なので、うちでやったことは、散歩にだしてすぐに排泄でき、ご近所の迷惑にならない場所を見つけること(公園の端っこ)、そこでコマンドを声かけしながら待ち、おしっこしたらすぐに褒め、フードで強化するということです。はるがうちに来た初日はAFCから同行して下さった山本先生と察子さん(と杉山先生)が一緒に公園まで来て下さり、山本先生が察子さんにおしっこをさせてくれました。すると、はるも察子さんがおしっこをしたところにおしっこをするじゃないですか。那須塩原からの長距離ドライブで確立操作もばっちり効いていたということでしょう。さっそくフードをあげました。

 これが強化として機能したかどうかはわかりませんが、翌日もそこでおしっこをしてくれました。そのあたりは近所のわんちゃんたちの散歩コースで、他のわんちゃんのおしっこの臭いもついているところでした。それで排泄が誘発されやすかったのだと思います。以後、ここが工事で使えなくなるまで、排泄場所となりました。

 機会と場所が決まったので、後はスケジュールです。はるが来たのが2月。ちょうど後期が終わったところで、授業もなく、比較的自由に時間がとれる時期でした。でも、4月になれば授業も会議も再開し、家にいられない時間が長くなります。それまでにお留守番ができるように教えなくてはなりません(お留守番の練習についてはこちら)。

 同時にそれまで日中は4-6時間おきにクレートから出され、散歩がてら排泄の機会があったのを、最終的には一日2回の散歩のときだけですませるように教えないとなりません。一日2回といっても、きっちりと12時間おきに散歩にだせるとも限らないので、最長で14時間くらいは保持できるように教えようと考えました。

 これについては「月齢+2時間」が目安になると書いてある本がありました。ただ、排泄を我慢できる最長時間についてはどの本にも書いてありません。ネットを調べると「24時間我慢したことがあった」という報告がある一方、「そんなに我慢させたら尿道炎になってしまう」とか「うちのワンちゃんは4−6時間おきに散歩してます」といった飼い主さんの声が目立ちました。獣医さんなどによる専門的な意見は見つかりませんでした。

 犬のことについて専門的な知識もないのに色々と語る飼い主さんを"犬博士"というそうです。心理学でも、心や行動の働きについて、科学的根拠も論理性もなく、素人さんが(時に素人さんレベルの専門家が)解釈する"理論"を「素朴心理学」と呼んでいたりしますが、犬については、心理・行動面だけではなく、生理・医学・遺伝など、様々な学問領域について素朴な理論を展開する飼い主さんがかなりいて、まともな訓練士さんにとってはときに弊害になるそうです。飼い主さんに助言しても近所の"犬博士"の意見でくつがえされてしまって、しつけが進まなくなることがあるからだそうです。

 幸いなことにうちのご近所にはそういう"犬博士"さんは見当たりません。せいぜい、時々、はるの犬種について推論する人に出会うくらい。でもネットをみる限り、確かにこういう"犬博士"らしき人たちがたくさんいるんだなという印象は持ちました。

 ただ、そういう雑駁な情報も使い方によっては有益です。基本的なことですが、自分の場合は「事実」と「解釈」に区別して、「解釈」はほぼ捨ておき、「事実」だけを抜き出すようにしています。たとえば、排泄の間隔については、なぜ短くしなくてはならないのかとか、犬がどういう"気持ち"なのかとか、我慢させたら○○になってしまうかもしれないとかいう不安はあくまで参考程度に読みとばし、実際、どのくらいの時間間隔をおいているのかを拾って読んでいきました。そうすると、事実として、ほとんどの犬は7-8時間は我慢していることがわかります(「4−5時間おきに散歩に連れて行っています」という人も自分が寝ている間は散歩させていないわけだから)。それから散歩をさせているのが一日2回でそのときに排泄させている人がけっこうの数いることがわかります。となると、排泄間隔の最大値が12-14時間というのは、それほど珍しくないとわかります。そして膀胱炎などを心配する書込みがある一方、一日2回の散歩しかしていなくて(そのせいかどうかはわからないにしても)膀胱炎になりましたという報告は見つかりませんでした。また、膀胱炎になったときの症状については複数のサイトで共通項目が見つかりました。これらを総合すると、犬の様子を観察しながら、成長にあわせ、徐々に排泄の間隔を延ばしていけば、12-14時間間隔にすることは、おそらくそれほど問題ない、という結論に達します。

 そこで記録用紙に「排泄間隔の最長時間」を記入し、様子をみながら、2月(月齢6ヶ月)に8時間から初め、月に+1-2時間のペースで少しずつ、ゆっくりと延ばしていき、4月には11時間、6月には13時間、7月には14時間でも問題ないことが確かめられました。4月の半ばにはそれまで一日3回散歩に行っていたのを、2回に減らすことができました。

 それ以後は必要もないのでそれ以上間隔を延ばそうとはしていません。9月くらいから、別の理由で、家でも排泄訓練を始めたので(これについてはまた後日報告します)、今では、たとえば夕方4時くらいに散歩に行っても、夜寝る前に家でおしっこしたり、朝、散歩に行く前に家でおしっこしたりもしています。つまり、散歩まで我慢する必要はない状況でもおしっこをする間隔は12時間くらいということです。

 会議などが長引いてお留守番が14時間を越えてしまった日も何回かありましたが、そんなときも粗相はしてませんでしたし、帰ったら自分と遊ぶことに夢中で、散歩に行きたそうにするわけでもなかったです。

 犬によっても、年齢によっても、摂食や摂水状態、あるいは体調によっても排泄の時間的間隔は変わってくるでしょうが、うちの場合はこのようにして排泄の間隔を延ばしました。

 最後に冒頭のイラストです。家で排泄訓練をするのに(主に体調が崩れて下痢したりしたときのためです)、購入したトイレトレーについていた取扱説明書(「指導法」)の一部です。説明書きからは「犬を叱る」は削除されているのですが、イラストには残っているところが面白かったので掲載しました。ガミガミと叱られて申し訳なさそうにしているワンちゃんが哀れですね。

このシリーズの過去記事一覧:

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