自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

はるがきた:やんちゃな小犬の子育日記(番外編3) 区の保健所が主催した「犬のしつけ教室」に行ってきました。苦言と提案です。

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はじめて犬を飼う人、犬の飼い方について困っている人を対象にした教室ということで、私はどちらにもあてはまりませんが、こういう教室にはこれまで行ったことがなく、行政が主催する会でどのような話が聞けるのかに興味を持って参加しました。

平日の夜7-9時に催される会に20人くらいの参加者。これから犬を飼おうと思っている人、すでに犬を飼っている人がおよそ半々くらいでした(講師の先生から質問されて挙手)。

講師は某トレーナー協会の認定を受けているという先生で、地域のボランティア活動にも積極的に関わっている方ということです。

講義の前半は犬を飼うときの一般論。動物愛護法とか条例とか狂犬病ワクチン接種などの話と犬種別特性の話。○○図鑑だとチワワやミニチュワダックスは都心でも飼いやすいと書いてあることがあるけど、吠えやすい犬種であるとか、ジャック・ラッセル・テリアは可愛いけど、ものすごい運動量が必要なので一般の人には勧めないとか、ドーベルマンをマンションで飼うのもどうかと思う、などなど。

狂犬病ワクチンについては異論もあるんだよなぁとか、こういう犬種特性って、はると出会う前は、それこそ図鑑とかを毎晩のように読んで勉強してたよなぁとか(そして、結局、犬種特性で飼う犬は決められないという結論に達したよなぁとか)、こういう話の流れだと、雑種は蚊帳の外だなぁとか思いながら聴講。

手元には都や区のハンドブックとかも配付されていたので、これらにも目を通しました。

都の冊子は素晴らしいです。「しつけは犬の必修科目」という章には以下のように書いてあります。環境設定を重視し、体罰を禁じています(p. 7)。

5. 叱る状況を作らないように予防する。
(例:かまれて困るものを放置しない。ゴミ箱にはふたをする)
6. 困った行動を叱るのではなく原因を考えて対処する。
7. 体罰は絶対にしない。どならない。おどさない。

区の冊子も負けていません。「噛み癖をやめさせましょう」には甘噛みを好子消失による弱化を使って減らす方法が書いてあります(p. 5)。

甘噛みであっても、噛まれたらすぐに「痛い」と伝えて、その場から離れましょう。歯を使うと大好きな人がいなくなってしまうことをおぼえさせます。

さらに次のページでは(p. 6)、叩くことで噛みを誘発する可能性を警告しています(叩くことが確立操作として機能し、回避/逃避の随伴性が噛みを強化するようになる)。

犬がいうことをきかないと、犬の頭を叩く人がいますが、これをすると、この犬は
頭をなでようとすると人の手をこわがり、噛むようになってしまいます。

さらにさらに、無駄吠えには消去、不安の吠えには(深読みすれば)馴化、消去、拮抗条件づけを使うべしとあります。

犬は飼い主に何かをしてほしくて吠えています。吠えているときには、犬と目を合わせず、無視しましょう。

犬は知らないことに反応して吠えることがあります。普段から社会性をみにつけることで解決できることがあります。この音は何?と疑問をもたせないで、この音はこういうものだから大丈夫!ということを教え、むだに吠えることをなくさせましょう。

「後半は参加者からの質問や相談に答えますので、何かあったら講師への質問をお書き下さい」というメモ用紙が用意されていました。どうしようかな、何か書こうかなと考えているうちに、質問や相談の時間もなく、2時間が終わってしまいました。

後半は講師の先生のしつけについての話が中心でしたが、これはかなり残念でした。ご自身が飼ってらっしゃるワンちゃんの話なのですが、たとえばこんな感じです。

うちの犬は飼い主(講師ご本人)を病院送りにするほどの噛み犬です。

そういう深刻な問題を抱えていて、解決策を探しにきてらっしゃる参加者の方もいるかもしれないのだから、解決策を提示すべきでは?

うちの犬はおやつは興味がないんです。だからしつけはおやつじゃなくて、遊んであげることでやってます。

でもフードは食べるそうです(笑)。

うちの犬は名前を呼んでも振り返りません。耳が悪いのかもしれません。

うちの犬も今そういう状況になっちゃったんで、呼び戻し訓練を最初からやり直しているところです。キュッキュなるボールには良く反応しますから聴覚はOKだと思うので。

うちの犬はしっぽを噛む癖があります。トラウマがあるみたいです。そういうときには抱きかかえてあげると落ち着きます。

飼い主さんの(講師ご本人の)注目や接触がそういう行動を強化している可能性があるのでは?と思っているうちに、

うちの犬はよく泣きます。不安なのかもしれません。だっこしてあげると泣きやみます。

あららら、やっぱりと納得していると。これについては自分の対応が泣き続ける原因かもしれないと、まるでノリツッコミみたいな展開でした(でも、だから注目をやめて消去してみましたという話は残念ながらなかったです)。

「うちの犬」の話はまだまだ続きます。

昔はペット禁止のホテルに内緒で連れて行ってましたが、最近はそれもできなくなってきました。

とか、

ペットと泊まれる宿に行っても、うちの犬は部屋で一人で留守番できず、吠えるので、そういうときには車の中に入れておきます。

とか。

え〜。そんなことする人がいるからペットをOKしないところが増えちゃう(and/or ペットをOKとするところが増えない)んじゃないですかとか、そういうときに安心してお留守番できるように教える方法を皆さん聞きにきているのではないのでしょうかとか。

このあたりまでくると、私、かなりしかめっ面です (`-´)゛

チャイムについても同じです。

うちの犬はピンポーンの音で吠えます。

だそうです。

この問題行動については、チャイムがなったらおやつをばらまくという手順を紹介していました。しかし、それがうまくいくのは(チャイムやその後家に入ってくる見知らぬ人に対する不安反応を減らすための)拮抗条件づけではなく、口にフードが入っているから吠えられないとお考えのようでした。

なぜご自分のワンちゃんにそれをしないのかなと思ったら、そうでした。「うちの犬はおやつは興味がないんです」でした。だったらフードを投げればいいのにね。

うちの犬は所有欲が強くて、おもちゃを取ろうとすると噛みます。

はるが来たときに山本先生に最初に教えていただいた(たくさんの)ことの一つがこれでした。タオルを噛んで放させて(手間に引くのではなく犬側に押すように力を抜くとはずえることがある)、そしたら遊びを継続してあげるとか、アキレスみたいな噛めるおやつを噛ませ、同じように放させ、そしたら瞬時にレバーペースをつけて返してあげるとか。フードを食べているときにボールにおやつを追加してあげるとか。うちの子はおかげさまでフードやおやつを守る危険行動はしません。タオルやボール遊びの文脈でなら「ちょうだい」で放せるようにもなってきました。

そういう指導方法の一つでも話してくれればいいのに。

質問の時間がなくなると悟ったのか、参加者の一人から「遊んでいると甘噛みしてくるので、獣医さんに相談したら、飼い主が上の立場であることをわからせるために、脚をぎゅっとつかんで押さえつけなさいと言われました。それでいいんでしょうか?」と質問されると、

脚をつかむことはしなくてもいいと思いますが、「だめ」っときちんと短く怒ってあげましょう。

と回答。今どきαな獣医さんも獣医さんですが(そういう獣医さんはまだまだ多いようですが)、せめてせっかく配付した区の冊子を引用して「その場から離れましょう。歯を使うと大好きな人がいなくなってしまうことをおぼえさせ」ましょうくらい言ってほしかったです。

もうおわかりでしょうが、この時点で、私はこの講師先生に相当の不信感を抱いていました。

ブログで個人攻撃をする気は毛頭ありません。色々な人から話を聞いてみると、どうやら、こういう「しつけ教室」は珍しくないそうなのです。「しつけ」のインストラクターに関しては民間の資格が色々作られているそうなのですが、基本的には「おすわり」や「ふせ」や「おて」のように、何か新しい行動を教えることを「しつけ」と呼んでいるようです。「吠え」「噛み」「排泄」など、日常生活における問題行動を減らす技術はあまり重視されていないようなのです。でも、一般の飼い主さんの興味というか、愛犬と一緒に幸せに暮らしたいという願いを叶えるためには、このへんは避けて通れませんよね。

うちの犬は「おやすみ」と言えば寝ます。犬は条件反射で覚えますから。

「おやすみ」よりも電灯が消えたり、飼い主が寝て動かなくなることが手がかりになっているのでは?(昼間、飼い主さんが友達と大騒ぎしてても「おやすみ」で寝ない限り)

私の場合、はるが来る前は寝室ではテレビをつけっぱなしにしてタイマーかけて寝ていたのですが、これだと刺激変化がはっきりしなくて、はるが寝る状態(ベッドにあがって、くるっと丸まって目をつむる)に移行しにくかったので、それはやめました。元々、安眠のため、カーテンはかなり分厚いものを使っているので、電灯を消すとまっくら。二重サッシで静寂。はるがちょっかいをだしてきても当然一切無視です(消去です)。これで今では電灯を消すと、溜息をつきながら(うそじゃないです)、寝る体勢に入ります。ちなみに、すぐには寝ません。目は開いているようです(時々、目があいます。瞬間、目をつぶって寝息をフェイクします)。

あと....「条件反射」....ではないですね(笑)。

2時間の教室の最後の方で、とても気になる話がでてきました。

「この犬、ばかなのよ」とか、犬には全部聞こえてわかっていますから、目の前では話さないで下さい。陰口は聞こえないところでお願いします。

私も、ついつい「○○○、コラ」とか言ってしまいます。

「この犬、ばかなのよ」が犬に"理解"できるかどうかは別として、飼い犬を「ばか」と言うような状況は悲しいですね。「陰口は聞こえないところで」なんて言わず、「うちの犬、賢いのよ」「うちの犬、可愛いでしょう」としか言えないような状況にしていくのが「しつけ」なのではないでしょうか。幸いにも、有難いことにも、うちはそうです。聞こえないところで「親バカ」と陰口言われても気にしません。

「コラ」が機能するためには何かしらの随伴性が必要なはずです。私は基本的には「コラ」ではなく「ダメ」を使っていますが、言うだけではありません。たとえば、座椅子に噛みつき始めたら「ダメ」と言い、それでも止めなければ別室に立ち去ります(好子消失による弱化)。座椅子への噛みつきはこれでかなり減りました(ほぼ毎晩だったのが1週間に一度くらいに)。「ダメ」が警告刺激として機能するようになったかどうかは不明です。「ダメ」でやめることもありますが、一瞬動きが止まった後、座椅子攻撃を続けることもありますから。しかも般化はしていません。散歩中、道に落ちているゴミを口に入れようとしたときに「ダメ」と言っても何の効果もありません(もっともこれは随伴性がまったく異なりますから当たり前といえば当たり前。落ちているものを「そのままに」することを教える別のコマンドや練習が必要ですね)。

ただ単に大きな声や怖い顔で「コラ」と言って、その場でその行動を止めさせているなら、都の「7. 体罰は絶対にしない。どならない。おどさない」に抵触するのではないでしょうか。それに、それだけなら恐らく犬はすぐに馴化してしまい、「コラ」と言われても"聞こえないように"振る舞うかもしれません。そこから「体罰」(や「天罰」)にエスカレートしないためにも、もっと別のしつけの方法を具体的に紹介すべきだと思うのです。

この「しつけ教室」についてブログに書くべきかどうかかなり迷いました。おそらくは無償ボランティアで一生懸命に講師をして下さった先生に無礼、失礼をしてはいけないからです。でも、はじめて犬を飼う人や犬の飼い方について困っている人に保健所という公の機関が提供する「教室」としては甚だ不十分であり、改善の余地があると思い、書くことにしました。

一般の飼い主さんがあのような「教室」を受講したら、吠えたり噛んだりするのは「犬種」や「ばかな犬」のせいであって、講師の先生の飼い犬でもそうなのだから、うちの犬がそうでも仕方ないと思う人がでてきてしまうかもしれません(そして「コラ」とか「バカ」とか言い続けるのかもしれません)。あるいは、そんなにたいへんなら犬を飼うのは止めようと諦める人がでてくるかもしれません(それはそれで正しい判断かもしれませんが)。

本来ならこういう「教室」では、吠えたり噛んだりするのをいかに減らして、飼い犬とハッピーに暮らせるか、具体的で実行可能な方法や例をできるだけたくさん紹介すべきだと思うのです。そして、せっかく2時間もあるのですから、参加者からの質問や相談を受ける時間をしっかり確保し、飼い主さんとワンちゃんの状況を聞取りながら、できるだけそれにあった方法を助言するようにして欲しいです。

そうです。つまり、長くなりましたが、この記事は、こういう「しつけ教室」を開催する公の機関の担当者さんに向けてのお願いなのです。

最後に蛇足:2020年オリンピック招致活動のメモパッドが配られてました。表紙だけじゃなく、メモ用紙も六色刷り。超贅沢。せっかくなので東京が選ばれますように。

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