自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

MOとEOについて:とりあえず「確立操作」のままでいいと考えるいくつかの理由

 「確立操作」(Estblihing operations: EO)という用語は、Larawayら(2003)以来、「動機づけ操作」(Motivating operations: MO)と呼ばれることが多くなっています。

 これは元々、EOに関連する用語についてJack Michael 先生が抱いていた懸念を解決しようとした工夫です。一つは操作の方向:たとえば、遮断化は好子の強化力を増し、飽和化は好子の強化力を減じるというように、両方向に作用するのに、“estabishing”という英語からは増加の印象しか受けないこと。EOのもう一つの機能である、反応を引き起こす作用(“evocative effects”)についても同様で、作用は促進と抑制の両方向なのに用語の印象は片方向であること。最後は、好子だけではなく嫌子の機能も変えるということ。

 なので、Larawayら(2003)では、増減両方の機能を持つ操作としてEOではなくMOという用語を使うことにして、増やす操作をEO、減らす操作をAO(“abolishing effects”)と呼ぶことを提唱しているわけです。

 確かに論理的であり、正論だと思いますが、私は以下の点から、この用語(MO)を使っていません。

1.  “Motivation”という言葉がすでに手あかがつきすぎていて、心理学だけでも色々な定義があり、“punihser”や“punishment”と同じように誤解を生む可能性がある(特に、行動分析学の初学者や行動分析学以外の心理学者に対して)

2. “Motivation”という用語はもっと漠然とした、広い、いわば素朴概念としてとっておき、それを行動分析学から解釈する作業をすべきであり(例:たとえば、いわゆるMO以外にも、そもそも随伴性、強化スケジュール、好子や嫌子の派生など、“Motivation”の下位分析にあたる概念や法則は他にもある)、EOだけに収束させるべきではない。

3. (これは半分冗談だけど)一般人にとって“MO”(エムオー)といえば、犯罪系のドラマの“MO”(motives:(犯罪)動機や目的)の方がはるかに耳に馴染んでいるわけで、ABAIのポスター発表の会場で“MOがMOが...”と話している人がわんさかいるのは、妙な印象を与える。もう少し社会全体に対して感受的になった方がよいのではなかろうか。

4. 日本語の「確立」には「増やす」という意味はない(だから英語圏の人たちの心配は実は共有されない)。
 かくりつ【確立】(名)スル 物事の基礎立場計画方針などをしっかりきめること。不動のものとして定めること。「外交方針を―する」「婦人の地位の―に努力する」(スーパー大辞林

 以上の理由から、(主に)アメリカ人の動向にあわせて、ようやく定着してきた日本語の用語を「確立操作」から「動機づけ操作」に変える必要はないというのが、私の個人的見解です。

 なお、punisherについてやpunishmentにおいてもEOを考えるべきではないかと、二十年近く前にJack Michael先生の授業で質問した私としては、そういう検討がされるようになったことはいいことだと思うのですが、Larawayら(2003)で取り上げられているのはタイムアウト(好子消失による弱化)の例であり、この場合、EOがかかっているのは嫌子ではなく好子なので、これでは不十分だと考えます。このあたり、これだけの専門家が著者として名を連ねていても(Jack and Alan)、もしや嫌子と弱化を混同してしまっているのでは?とさえ思います。用語というのは思考の元になるわけなので、それだけ大切だとは言えると思います。

Laraway, S., Snycerski, S., Michael, J., & Poling, A. (2003). Motivating operations and terms to describe them: Some further refinements. Journal of Applied Behavior Analysis, 36(3), 407-414. doi:10.1901/jaba.2003.36-407 (ここから無料でダウンロードできます