自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

そのピアからの質問に答えます:「Q.今まで担当したゼミ生の卒論でおもしろいと思った論文はなんですか?」

 そのピアが先週ゼミの説明会を開催してくれました(今年初めてやる企画だったんじゃないかな)。

 開催前のピアのメンバーから質問されたので以下のように回答しました。説明会に参加できなかった人のために公開します(長いし)。

Q.今まで担当したゼミ生の卒論でおもしろいと思った論文はなんですか?

A. うちのゼミの場合、みんなが他にはない個性的な研究をやることになるので、テーマも結果も、少なくとも私にとっては卒論の9割以上が 「おもしろい」ものになってしまいます。なので、そのうち一つ二つを選ぶのは難しいです。法政心理学年報で卒論の要旨を読んで下さい。というか図を見て下さい。うちのゼミの卒論だと、ほとんどが、縦軸には何らかの行動を測定した数値、横軸には 何らかの条件が示されていると思います。つまり、どんな行動がどんな条件でどのように変わるのかをつきとめる研究になっています。卒論のテーマはゼミ生の興味次第なので、縦軸の値は、企業の在庫管理だったり、合気道の技やテニスのサーブだったり、インターネットのHPへのアクセスだったり、商品への印象や価格判断だったり、日本茶や紅茶の味覚だったり、勉強やダイエットの継続だったり...と、誰の何の行動かはいろいろです。そんな中で、強いて言えば、「あ、この行動はこんな条件でこんなふうに変わるんだ!」と はっきりわかった研究が特に面白い研究ってことになると思いますが、これもほとんどがそうなので、....ごめんなさいやっぱり一つ二つを選ぶのは難しいです。

 行動分析学はテーマフリー、つまり、何の研究をしたいかは問いません(何でもいいです)。ただし、それを「行動」として特定し、測定 します(いわゆる「質問紙」は補助的にしか使いません)。そしてその行動を変える刺激や条件、変数を実験的に探索します(因 子分析など多変量解析の手法を使って統計的に探索することはまずしません)。どうして多くの卒論で変数の探索に成功し、かなりはっき りした結果がでてくるかというと、予備実験を重視するからです。本実験に入る前に「あれやってみよう、これはどうだろう?」と いくつかの変数の効果を試していき、「これかな?」と思った段階で本実験に入ります。そうやって、行動を変える変数を段階的に見つけ ていくところに行動分析学の醍醐味があるのです。そして9割以上のゼミ生がそういうプロセスで研究を進めていくので、結 局、どれもこれも私にとっては面白くなってしまうということです(何回も予備実験を繰り返さないとならないことを苦痛に感じるゼミ生 はいると思いますが、たぶん十年後に振り返ればいい想い出になっていることでしょう ^^)。

 最後に、うちのゼミでは、いわゆる「内的モデル」で行動を説明しようとはしません。代わりに環境と行動との関係性(行動随伴性で 結果を解釈します。見かけはまったく異なる、幅広い種類の行動をすべて同じ「行動随伴性で解釈してしまうところが面白いところなのですが、これはゼミ生というよりも私にとっての楽しみみたいです。