自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

エコポイントの随伴性

 ここ何年か(もしかすると十何年か)の政策で最も成功したのではないかと思われるエコポイント制度が終了(エコカー減税)もしくは限定(家電エコ)される。この政策のために確保した予算がなくなるからだが、つまり消費行動を促進させるのにそれだけ有効だったということだ。「内需拡大」がお題目状態で何をやってもだめ状態なのに、唯一の成功例を打ち切るのはまったく解せない。
 政府主導で特定の産業に補助金をだしてもりたてるのはうまくいかないし、無駄が多い。そんなことができるなら企業はどんなときにも成功することになるが、実際にはそうはいかないし、だいたい成功例がない。減税も一手だが、国策として促進したい産業に金が回るとは限らない(消費が拡散したり、貯蓄に回る)。国策として促進したい産業が提供する製品やサービスを購入する消費者の行動をインセンティブを与えて強化する制度は行動分析学から考えても有効な政策と言えるだろう。
 問題はどのくらいのインセンティブを用意すれば消費行動が実際に誘発されるかという点だが、マイレージやスーパーのポイント制度をみる限り、換金率はそれほど高くなくてもいい。むしろ、ポイントが確実にたまること(比率が明示された定比率強化スケジュール)と、たまったポイントが幅広い商品と交換できること、そして交換に手間がかからないことあたりが重要な変数だ。そしてシステム自体への「信頼感」を維持するために、交換比率は決して「改悪」してはいけない。このあたりのノウハウはトークンエコノミーシステムの研究や実践、カード会社の取り組みなどから、かなり累積している。
 だから例えば家電エコポイントなら、ターゲットとなる家電(たとえば燃費の悪い旧型冷蔵庫やエアコン、洗濯機)の全国での台数とそのうち何台をエコポイントで買い替えさせるかという目標台数を決定し、それにいくら費やすか(いくら費やすのであれば、CO2排出権や省エネ技術革新へのコストとして均衡するか)を計算して総額の予算を計算し、まずは最低限の換金率(たとえば楽天スーパーポイントを参考に100円で1ポイント)から始め、効果をリアルタイムでモニタリングしながら消費行動の頻度が低い場合には期間限定で換金率をあげるキャンペーンをする...など、企業がすでにやっていることを踏襲するだけでも、もっと有効に実施できそうなのだが。
 エコポイントは環境省経済産業省総務省の協同プロジェクトらしい。縦割をぶちぬくという仕事のやり方としても優等生だ。ぜひとも継続して改善して頑張って欲しいな。