自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

「障害者権利条約」と特別支援教育

今年度から国立特別支援教育総合研究所で研究員として勤務している猪子秀太郎先生に、学校心理学の授業でゲストレクチャーをお願いし、猪子先生が担当されているプロジェクトについてお話をうかがいました。

どれも興味深いお話でしたが、特に個人的に興味を持ったのは、「障害者権利条約」にまつわる話でした。

「障害者権利条約」は国連で採択されている国際条約で、我が国も2007年に署名しているのですが、未だに批准はされていません。国際条約に批准するとなると、違反があれば何らかのペナルティを受けます。我が国の現状で批准すると、ペナルティがあることが明らかなので批准できないわけです(地球温暖化対策の国際条約にアメリカや中国が批准しないのと同じです)。

ただ、もちろん放置はできないわけで、批准するためには何をどうやって整備しなくてはならないかが少しずつ検討されているとのことです。

「障害者権利条約」は政府では「障害者の権利に関する条約」として翻訳され、外務省のwebサイトで公開されています

たとえば「教育」に関しての条文を読むと、

(c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。

とあります。

この条約の基本精神は、障害がある人とない人の垣根を援助によってできるだけ取り払うというインクルージョンの立場をとっています。

つまり、たとえば自閉症ADHDなどの発達障害がある子どもへの指導をする場合、障害があることで不利にならないように、できる限りの支援をすることが、行政にとっての義務になるわけです。

そこで「合理的な配慮」とは具体的にはどのようなことなのかが検討されているそうです。

たとえば、ADHDがあって長時間集中して課題に取り組むことが難しい生徒には、受験で試験時間を延長するとか、他の人と一緒に狭い部屋にいるとパニックを起こしやすい生徒には個室で受験する権利を保障するとか、そういう検討だそうです。

こういう線引きは一般論としてはかなり難しいのではないかと思うのですが(結局、個別の事例を検討するしかないような気がする)、でも行政としてはやらなくてはならない仕事のようです。

ぜひともエビデンスを重視して、何を「合理的」と判断するかを決める手順についても合理的に判断して進めて欲しいものだと思いました。