自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

Kzokuコラボ企画:ケーゾクはチカラ! その6(最終回)

 前回の記事から6ヶ月が過ぎました。執筆をサボっていたわけではなくて、Kzokuでほんとうにダイエットが継続できるかどうかを身をもって検証するために、半年間、1ユーザーとしてひっそりと取り組んでいたのです(注1)。

 百聞は一見にしかず。まずは過去1年間(365日間)のグラフを見てみましょう。体脂肪率は非表示にして体重だけを表示してみました。

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 前回、このレポートを書きながらダイエットに取り組んでいたのが6月から7月にかけてです。その前にも新学期開始頃(3月の終わりから4月にかけて)に少し頑張っていました。冬の間に蓄えた脂肪がこの2回のダイエットによって落ちていき、一時期は72kgを切っていたのがわかります。

 ブログでレポートを書くのを中断し、自分のダイエットの状況が皆さまの目にふれるという条件を取り去った後も、8月いっぱいはダイエット行動がある程度は維持できていました。ブログを使った社会的随伴性のバックアップがなくてもKzokuで継続できることがこの段階でわかりました。

 ところがそれもつかの間の喜びでした。食欲の秋の到来とともに、体重はぐんぐんと増加していきます。10月を過ぎるとまたたくまに74kg台をヒットし始め、ついに禁断の75kgにも到達しそうな勢いです。明らかにお腹まわりがゆるくなり、だぶついた肉をぎゅにゅっとつまめるほど成長してしまいました。

 注目すべきなのは、9月から12月の4ヶ月間は、ほぼ毎日体重計に乗り、ほぼ毎日Kzokuに記録を入力していたということです。

 記録だけのダイエットには限界があるということになりますよね。あるいは、食欲の秋 vs レコーディングダイエットの戦いは食欲の秋に軍配があがったとも言えるでしょう。

 体重は季節周期で変動するのが自然のようです。致し方ないと諦めるのも一つの手ですが、今年はめくるめく季節の流れにあがなってみることにしました。

 クリスマスや年末年始(忘年会や新年会)は、ダイエットする人にとってはまさに鬼門です。食べ過ぎ・飲み過ぎたくなくても、皆が盛り上がっているときに一人ガマンしていたら場も盛り上がりませんよね。結局、新年になって気がついてみると体重が元通り、いやそれ以上にリバウンドしてしまう人も多いはずです(自分も毎年このパターンを繰り返してきました)。

 そこで今年は手遅れになる前に手を打ったのです。

 作戦は次の通り。

正月太りに打ち勝つ作戦 (1) 摂取カロリーを抑制するため、「やること」の中の「野菜多めに食べました」、「腹八分目に抑えました」、「間食しませんでした」の3項目に対するヤッターポイントを2倍に。
(2) 一週間のうちヤッターポイントが5点以上の日が6日以上あれば、残りの一日はフリーで食べ放題(この日を忘年会や新年会などにあてる)。
(3) 体重の目標をより現実的な73kg(体脂肪率は18%)に変更。
(4) 思いつくたびシステム手帳に書込んでいる「欲しいものリスト」の物品は、目標を達成したら買えるようにする(目標を達成しないと買えない)。

 これなら週に一度の飲み会なら遠慮なく飲み食いできます。野菜を多めに食べることで健康も維持できます。「欲しいものリスト」は衝動買いを防ぐための手段ですが、それにも関わらず衝動買いはなかなか止められません。どうせならと、これで衝動買いのエネルギーをダイエット行動の継続に使えそうです(ちなみに現在リストにあがっているのは新しいテニスラケット、DIESELのデニム、ハイスピード動画対応のデジカメ、今春発売予定のタブレットMacです)。

 そしてこのプランを師走に先駆けて導入し、手遅れになる前に先制攻撃することにしたのです。

 プランは功を奏し「やること」をやるようになりました。下の図で黄色からオレンジ色に変わっているところがプラン変更点です。重点3項目の配点を2倍にしているから総得点が増加しているのはあたり前ですが、そのぶんを差し引いても実行動は増えています。

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 次に体重の変化です。

 ちょっと面倒でしたが、やってみたいことがあったので、10月から12月までの体重の記録をKzokuからExcelへコピペして、グラフを作成してみました。応用行動分析学でよく使う形式の折れ線グラフです。横軸は日付、縦軸は体重、縦の点線の左側がKzokuを使った記録のみの条件、右側が今回の作戦の条件です。作戦を導入してから体重の変動が大きくなっているのは、週に1回の食べ放題の日に向かって体重が減少するものの、食べ放題の日の翌日からまた体重が増えているからです(カラダってホントーに正直ですね)。

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 体重が増えてしまうなら作戦は失敗なのでは?と思われるかもしれまん。

 それを判断するため、上のグラフに「近似直線」をあてはめてみました。応用行動分析学ではデータの傾向を判断するために「split-middle line」という手法を使いますが(注2)、Excelでsplit-middleをやるのは結構手間なので、Excelグラフの「近似曲線」の機能を使ってお手軽に作りました。

 下の図からわかるように、作戦導入前の近似直線は右上がりです。このまま順調に(?)体重が増加すれば、1月中には75kgを確実にオーバーしてしまうことがわかります。「近似直線」を使うと、こうした《予測》が可能になるのです。

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 これに対し、作戦導入後の近似直線は右下がりです。変動こそあれ、右上がりの傾向が逆転し、このまま進めば1月中には73kgを切るのも夢ではないということがわかります。これは嬉しい《予測》ですよね。

 統計的分析っていうと難しく聞こえますが、Excelでグラフを作ることができれば数学や統計の知識がなくてもできてしまう分析ですから、よかったらお試し下さい。「このままだととんでもないことになる!」と現実を直視するのにも、「このまま頑張ればすぐには結果がでなくても半年後には必ずワンサイズダウンできる」と未来を見据えるのにも役立ちますよ。

 自分の場合、大晦日から三が日はダイエット休暇にしましたので、この間で体重はまたまた増加してしまいました。でも、安心。今回の作戦を使えば、季節の流れに打ち勝って正月太りを早めに解消できそうです。

行動分析学的ダイエットの"コツ"、最終回はこれ。

行動分析学的ダイエットの"コツ" ○太りすぎる前に先制攻撃で作戦を展開しましょう(そのためには「近似直線」が便利に使えます)。
○ダイエットとは真逆のイベント(忘年会や新年会)をダイエットに活用しましょう。
○いずれ買ってしまいそうなものをダイエット目標達成時の自分へのご褒美に使いましょう。

 『Kzokuコラボ企画:ケーゾクはチカラ! 』は今回が最終回になります。最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。

 私は今後もKzokuを活用してきます。このブログで成果報告をすることもあると思います。

 また会う日まで。ポップ・ガンマイ。


注1)応用行動分析学では、導入後、少なくとも数ヶ月以上後まで維持されていないと、行動変容プログラムの効果は充分ではないとみなす傾向があります。

注2)参考書

はじめての応用行動分析 日本語版 はじめての応用行動分析 日本語版
Paul A. Alberto

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