自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

「どのような学習メカニズムがヒトを含む多様な動物種に適応的な環境認識を可能にしたのか」 実森(2013)を読んで考えたことなど。

サバティカルも残り僅か。カレンダーに無頓着な生活をしていますが、世間が祝日だと、なんとなくのんびりするもので、読もうと思ってためこんでいた論文などを読んでます。

そんな論文の一つ(ここからダウンロードできます)。

実森正子 (2013). 動物の認知プロセスの理解と学習・行動研究—短期記憶, カテゴリ化, 等価性, 視覚探索をめぐって— 動物心理学研究, 63(1), 7-18.

動心での講演を論文化したのでしょうか、「講演論文」という冠が付いています。実森先生は、私にとっては学部時代の指導教員で、お名前をお聞きしたり、お姿を拝見すると、今でも情動反応が生じます(なにしろ不肖の弟子なものですから)。

この論文では、実森先生のライフワークである動物認知に関する研究が凝縮され、一つの物語のように紹介されています。緻密な実験を丁寧に積み上げ、個体の学習が認知の仕組みをどのように築きあげるのかを解明していくストイックな仕事ぶりには相変わらず感銘します。

名言引用:

「どのような学習メカニズムがヒトを含む多様な動物種に適応的な環境認識を可能にしたのか」という問いは、進化心理学、認知発達、神経科学、ロボティックスを含む近接領域に対して、比較認知や学習研究が答えなければならない基本的な問いだからである(p. 16)

ヒトの場合も、認知の研究の多くが、ヒトはこういう刺激にこのように反応するものだといった記述的なものと、その背景にはおそらくこういうメカニズムがあるのだろうといったハードウエア(神経科学的)あるいはソフトウェア(認知心理的?)に関する一部もしくは全部推測的なものであり、このようにするとこのように反応するようになるよということを示す学習的、行動的なものは少ないのが現状です。

動物の被験体と違って学習履歴がほとんどない参加者を得ることも、すでに獲得した行動傾向を学習によって上書きすることも倫理的に難しく、学習要因が認知的な行動傾向に及ぼす影響を実験的に検討することがなかなかできないという理由もあるのだと思いますが、だからといって、ではそういう仕組みがないということにはならないわけで、ここはブレークスルーが求められるところだと思います。

うちの研究室でも「見る」の制御変数を探る実験なんかを進めたりしていますが、緻密さが月とスッポン。もう少し頑張らねば、と仕切り直し。