自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

指導目標を決める思考(附記:お詫びとお礼)

前回「指導目標を決める思考」(2004.9.12)で取り上げた事例に取り組んでおられる先生方からお叱りを受けた。「私たちの事例のことを誰もが見られるweb日記に許可なく書かれてとても嫌な気持ちがした」とのこと。嫌な気持ちをさせてしまったことに、この場を借りて深くお詫びしたい。

先生方には昨日直接お会いしてお話し、ご説明したのだが、実は前回の解説は、その先生方が取り組んでいるケース以外の事例も参考にして書いたものである。特に「長期目標と中期目標のつながりが弱い」とか「学校行事をうまく進めることが優先されている」というのは、他の事例で見られた問題点である。複数の事例について書くと話がこんがらがるので、ひとつの代表例を取り上げてまとめさせてもらった。私の意図は特定の先生を批判することではもちろんない。その点は理解していただけたように思う。

コラボレーションプロジェクトを始めのが4年前。この年の事例研究は『コラボレーションプロジェクト2000』として公開されている。行動分析学について何も知らずに果敢にも事例研究に参加して下さった国府養護学校小学部の先生方には今でも感謝している。なにしろ、強化とか、好子とか、ベースラインとか、標的行動とか、応用行動分析学の基礎的な知識の研修はまったくしないまま、ほんとうに大ざっぱなところから始めたのだから。

そういう事情もあったから、当時、指導目標(標的行動)については、先生方の要望や考えをそのまま採用していた。ほとんど無修正だったと思う。

4年後。今年は各学校で自主的な研修会が開かれ、先生方がチームで事例を検討している。私からプロンプトされる前に、ホワイトボードにABC分析を書き出す場面もたくさん見られる。指導目標に関しても、個別の指導計画とからめ、長期目標、中期目標へとつながり、児童・生徒のQOLインパクトを与えるにはどんな標的行動を選べばいいのか、時に悩みながらも、深い話し合いが行われている。

「指導の現場で教えるべき標的行動をうまく見つけて選ぶ技術はどのように身に付くのでしょうか?」と、核心をつく質問をする先生もいる。

これはたいへんな進歩である。そしてこの進歩は、私のような門外漢を学校に呼んで下さり、自分たちのこれまでの仕事のやり方に、ある意味で「いちゃもん」をつけられながらも、新しい考え方や視点、指導方法を、試し、取り入れ、失敗と成功を繰り返し、そして何より、それを研究として、次の指導や研修プログラムの開発に役立てることに同意して下さった先生たちのフトコロの広さによるものだ。

標的行動をうまく見つけて選ぶ技術はどうすれば習得できるか.... 先生方からの問いかけに応えるべく、来年以降のサマースクールで実施できるように研修プログラムの開発を進めて行くのが、今度は私の仕事になる。

協同で事例研究を進めながら、教育の現場に必要などんな思考やコミュニケーションが必要なのかを探し出し、そしてそのトレーニングプログラムを一緒にしていく。コラボレーションプロジェクトのこの枠組みに賛同し、参加して下さっているすべての先生方に、この場を借りて深くお礼したい。