自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

学校での安全確保と教育委員会がすべきこと

重体の高3男子死亡、サッカーゴール下敷き  千葉県茂原市の県立茂原樟陽高校で、倒れたサッカーゴールの下敷きになり意識不明の重体だった3年の男子生徒が、30日午後2時50分ごろ、搬送先の県内の病院で死亡した(日経産業新聞, 2013/5/31)。

またしても悲惨な事故である。しかし「事故」で片づけてしまってはいけない。サッカーゴールやハンドボールゴールが壊れてたり、落下したり、移動したりして起こる事故はこれまでに何件も発生しているからだ。

文部科学省は2008年に「学校施設における事故防止の留意点について(第一次報告)」の取りまとめを公表している。

国立教育政策研究所のHPからは非常に詳細な報告書がダウンロードできる(「学校施設における事故防止の留意点について(第一次報告)

「課題と対策例」には、サッカーゴール、バスケケットゴール、テントなどの、転倒の危険があるものについては、杭などで固定したり、十分な重さと数の砂袋などで安定させるべしと明記している。

毎日JPの報道によれば「通常は土のうで固定するが、最近は部活動のグラウンド使用のため、移動させることが多く、この日も固定していなかったという。また、校内でもゴールポストの老朽化や腐食を指摘する声が上がっていたという」。

県の教育委員会は高校などに対し、ゴールが倒れないような対策を講じるよう“指導”するというが、これまでと同じように“注意喚起”するだけでは不十分である。

学校は児童生徒や教員にとって「安全」な場所でなければならない。しかし、事故の成り行きがいかに重大、重篤でも、発生確率が低い出来事の対策は、より直近の諸事情(風が強くなるたびに片づけるのはたいへんだし時間がかかる、土のうの移動も労力がいるし、生徒、教員ともにやりたがらない、ゴールポストを固定すると他の活動に使いにくいなどなど)が優先されてしまいがちになる。

天災は忘れた頃にやってくる型の随伴性で行動を制御するのは非常に困難である。そして、“注意喚起”は随伴性を変えない。よって、行動は変わらない。

学校現場の随伴性を、随伴性の真っ只中にいる教員や児童生徒が変えるのも至難の技であり、だからこそ、教育委員会がこの仕事をすべきである。

たとえば、上記の資料にある「課題と対策例」をチェックリスト化し、職員を学校に抜き打ちで派遣し、定期点検を実施し、結果を学校にフィードバックし、不十分なところは対策を求め、対策を約束する行動をそのための予算配置という好子で強化し、あるいは対策が講じられるまではグラウンドを使用禁止にする(好子消失阻止による強化随伴性)。

学校の独立性、裁量性は重視されるべきだが、子どもの命を守るためには、そのためのルールづくりに現場の意見が必ず反映されるという条件つきで、教育委員会がそのくらいの強制力を持ってもいいと思う。

チェックリスト作成(カスタマイズ)には現場の意見を十分に取り入れるべきだし、点検やその後の処置のルールも話し合いで調整すべき。また、こうした仕組みを改善していく手順も内在化しておくべきである。

学校が学校の機能を十分に果たすために、学校現場だけではできないことを補助する仕事こそが教育委員会がすべきことであり、安全確保(これにはいじめや体罰の防止も含めるべき)は最も高い優先順位をつけるべきことだと考える。