自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

集中の科学

Innergame

『新インナーゲームー心で勝つ!集中の科学』W.ティモシー ガルウェイ (著) 後藤 新弥 (翻訳) 日刊スポーツ出版社

ハーバード大学テニス部主将という実績を持つ筆者の“インナーゲーム”シリーズ。通常の指導書とは方向性がまったく異なる本である。

練習や試合でいかに“集中”し、身体がそもそも持っているパワーを完全に発揮するための“心の持ち方”の話。残念ながら邦題にあるように「科学」を期待するとずっこける。科学的な研究を元にした理論ではなく、あくまで筆者の思弁的分析だからだ(そもそも原著には「集中の科学」なんてタイトルはついてないし)。

ただし、思弁的分析でも優れた分析はあるという一例だ。

ガルウェイ氏はプレイヤーをセルフ1とセルフ2という2人の人格というか存在に分ける。行動分析学的にラフに言えば、セルフ1は言語行動、セルフ2は非言語行動にあたる。

テニスをしているときに、「あぁ、ここでまた手首を返しちゃった」とか、「相手がここに打ってきたら、あそこに返そう」とか、「ボールをよく見ろよ」など、声に出しても出さなくても、自分のプレーについてぶつぶつ言っている人は多いと思う。このぶつぶつ言う自分がセルフ1だ。

ところがこのセルフ1がでしゃばりすぎるとセルフ2が実力を発揮できない。“集中”するためにはセルフ1を静かにさせて、セルフ2が自由に動けるようにしてあげなさい、というのがガルウェイ氏の教えだ。

試合中、いつもより体が動くときは、自問自答によってではなく、ボールの軌道、スピード、回転、相手の動きなど、いくつかの重要な弁別刺激の刺激制御下に、脚の運び、重心の移動、上半身のひねりなどが入っているときだ(あたりまえだけど)。

“集中”というのは、確かに、いかに直接的随伴性の刺激制御を機能させるか、ということなんだろう。

ガルウェイ氏が考案したとしている「バウンスヒット法」(p.189)に類似したコーチングの有効性は、応用行動分析学の研究でも確認されている。

Ziegler, S. G. (1987). Effects of stimulus cueing on the acquisition of groundstrokes by beginning tennis players. Journal of Applied Behavior Analysis, 20, 405-411.

相手や自分が打つときに「Hit」、ボールがバウンドするときに「Bounce」と言わせる方法だが、言語行動をこれだけに限定させることでその他の余計な言語行動の自発を抑えて、プレーに必要な弁別刺激が有効に機能するようにする方法なのかもしれない。