自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

一対一対応を教える自立課題

各学校でコラボレーションプロジェクトの事例研究がスタートしている。今年は10の学校で60事例が展開中。進め方は各学校それぞれだが、教育支援アドバイザー派遣制度を活用し、午前中は授業観察を行ない、午後に事例検討会をするというパターンが定着化しつつある。

anan-2

事例検討会では対象児の実態、指導目標の妥当性、記録の取り方、指導の手だてなどを話し合い、その後は掲示板やデータベースを使ってネットを使った遠隔支援をしていく。

授業観察というのは時間も拘束されるし、私にとっては疲れる仕事なのだが、事例の他にもいろいろ面白いことを発見できるので、けっこう楽しんでいる。

ピーコの辛口ファッションチェック並みに、教材や指導方法や授業展開にツッコミを入れるので、観察される先生たちにとってはハラハラもんだろうが、私にとってもいい勉強になるので、実はたいへん感謝しているのだ。

ただ、その場その場でコメントするだけで終わってしまうので、後に何も残らない。もったいないので、できるだけブログに書き留めておくことにする。

今回は養護学校などで「自立課題」としてよく使われている「1対1対応」課題。下のような教材で、アイテムを一つずつ置いて行く作業だ(写真は国府養護学校教材データベースから借用したもので授業観察したものとは違います)。

one2one

これができるようになれば、たとえば、給食の準備をするときに、お盆に一つずつ牛乳パックを置いて行くといったお手伝いができるようになる...という目論見だそうだが、そうそううまくいかないこともある。

自立課題で「1対1対応」ができているのに、お盆に一つずつ牛乳パックを置けない(数個をいっぺんに一つのお盆に置いてしまう)児童の学習場面を観察した。

そこで発見したこと。

給食の準備がうまくいかない理由は他もいくつかありそうだが、自立課題を見ていて気づいたのは、先生が「1対1対応」の課題だと思っている課題が、実はそうでもないということ。

この児童の場合、教材を4段ボックスから取り出してから始める。そのときは確かに「1対1対応」課題だ。ところが、ゴルフボールを全部入れ終わったら、今度はそれを元のカゴに戻し始めるではないか。先生が言うには「片づけ」を教えているということだ。ところがこれは「多対1」課題。同じ教材で、行きは「1対1」帰りは「多対1」が正解になった課題設定である。

もしかしたら、足りないのは「1対1」「多対1」それぞれの弁別刺激ではないだろうか。言い換えれば、「一つずつ配ってね」という指示と「ぜんぶ一緒に入れてね」という指示に対応して、それぞれの作業を行なう練習だ。

おそらく給食のときには先生が言語指示しているこの手がかりが、自立課題には存在しない(だから練習できていない)。児童は課題の始まりを「1対1」の手がかりにしているのかもしれないし、わくにゴルフボールを入れ終わったことを「多対1」の手がかりにしているのかもしれない。

ちょっと専門的に言うと、「1対1」「多対1」も高次オペラントだ。どちらもそれを引き出す弁別刺激を決めて、教える必要がある。逆に考えると、そういう弁別刺激が設定されないと、子どもは教材や場面ごとにすべて個別に学習しなくてはならなくなる。

たとえば、「1対1」「多対1」それぞれ別のマークを考えてカードにして、同じ教材を使って「1対1」のカードのときは「1対1」に、「多対1」のカードのときには「多対1」に並べたり、移したりする練習をすれば教えられるかもしれない(こんな研究あるのかな?)。