自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

テロ対策に行動分析学を

ここ数年《いかに仕事を断るか》をセルフマネジメントのテーマの一つにしている。

「やります」と引き受ける行動は相手からの感謝などで即座に強化される。特に教育業界ではそれが「人助け」みたいな社会的な善行につながっているところがあるから。心意気のある人ほど、この強化随伴性の餌食になる。「頼まれた仕事は断らない」をポリシーにしている人までいるのも納得できる。

ところが、引き受けた仕事を「最後までやり通す」行動には「引き受ける」行動の1000倍以上の時間と労力を要すものだ。講演ならまだしも(とりあえずは1回で終わるから)、執筆とか論文の査読とか、修論の指導とかになると、引き受けた瞬間に後悔し始める人も少なくないはず。

自分の場合は、引き受けた仕事が約束通りに終わらないことは死ぬほど辛いから、約束通りに終えられるぶんしか引き受けないようにしているわけだが、「言うは易し行うは難し」の典型例みたいなもんで、これを貫き通すのはとても難しい。ときどき衝動的に、後悔しそうな仕事を引き受けてしまうことがある。

今回「しまった!」と思ったのは、ある研究奨励金の審査員を引き受けたこと。研究計画書(英文)を4本査読しなくてはならない。

〆切が近づいてきて、少し悲痛な思いで読み始めたら、これが予想を覆して面白い。4本ともパフォーマンスマネジメントの研究なのだが、テロ対策とか、パソコンを長時間使っても腰痛や腱鞘炎にならないようにする介入とか、リアルタイムのビデオフィードバックとか、面白いアイディアが満載で楽しめる。一気に読んで、一気にコメントを書き終えてしまった。

こういう部分強化モドキがあるから、安易に仕事を引き受ける行動が完全にはなくならないんだろうなぁ。