不思議本です。
著者のプロフィールには「ABAセラピー」とあるし、第5章「困りごとへの対応法」には、機能的アセスメントの話とか、代替行動の強化について書いてあるし、トイレットトレーニング(本書では「トイレトレーニング」となっています)や共同注視の指導にもふれているのだけれど、そうかと思えば、以下のような意外な展開もみせてくれます。
「瞳はこころの窓だから、瞳を見ていれば、お子さんが今どんな気持ちなのかが伝わってくるんです」(p. 36)
「まだ一語文の段階のお子さんの場合、単語一語ずつ、ゆっくり丁寧に伝えて、言われたことの意味をはっと気づけるようにします」(p. 46)
「ことばはなんのためにあるのでしょう? (中略) たとえ発音ができて、なにかフレーズを発することができても、そこに伝えたい気持ちがなければ、ことばはことばとしての本当の意味はないのではと思うのです」(p. 117)
行動分析家だったら、まず書かないと思うのですね、こういうことって(苦笑)。
米国では"Let me hear your voice"でロバースのプログラムが世に知られるようになり、一躍"ABA"セラピストがひっぱりだこになりました。ところが大学でいくつか授業をとっただけのような人まで"ABA"の名を語るようになってしまいました。フロリダ州で始まったBACBという資格認定システムが全米に広まって行ったのには、悪貨が良貨を駆逐するような事態にならないようにという配慮もあってのことでした。
とはいえ、BACBも、所詮は実習を含む修士課程修了+筆記試験で取得できる資格です。療法として行動分析学的な手法を学んだだけの人—元々の意味とはちょっと違いますが、いわゆる“方法論的行動主義”の人—でも取得できる資格です。もっといえば、BACB取得者=徹底的行動主義ではありません。
もちろん、徹底的行動主義者のセラピストの方が方法論的行動主義のセラピストよりも、セラピストとしての腕がいいということを示すようなエビデンス(RCT的な)はありませんが、私が知っている凄腕のセラピストは、全員、徹底的行動主義者です。「主義者」というのが語弊があるなら、クライアントの行動すべてを機能的に分析し、環境を変えることで行動を変える方法をみつけることにコミットしている人たちです。つまり、クライアントのためにも、精神主義に陥ることを徹底的に排している人たちです。
教育、療育、臨床サービスの全体的な底上げや、最低限の質の保証には資格システムが役に立つ可能性がありますが、理想解ではない。そのことを認識しておく必要があると思います。
などなど。 色々、考えさせられました。
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