自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

もしドラッカーが行動分析家だったら:ドラッカーの名言を行動分析学から解釈する(その27) 「自らの強みに集中する」

名言〔第4位〕:「自らの強みに集中する」

ドラッカーは、能力(competency)の底上げにはコストがかかりすぎるので、能力の高いところを伸ばすことに集中すべきとしています。適材適所や事業の選択という意味ではもっともですが、能力ではなく、行動やパフォーマンスのマネジメントという視点からすると話は異なります。また、中小企業の多くは、会社の規模という制限があるので、必ずしも適材適所の人事を理念通りに運用できないという事情もあります。ですので、以下の解釈ではこのあたりを勘案し、直訳というより、本意を離れた拡張的意訳をしてみました)

解釈:

 仕事の成果(パフォーマンス)に個人間や事業所間のばらつきがあるときには、できる人や部署とできない人や部署の差が大きければ大きいほど、一般的にその差を解消しやすく、できている人や部署の成果をさらに伸ばそうとするよりも効率的である。なぜなら、できている人や部署の行動を引き出し、強化している随伴性を分析し、できていない人や部署に欠けている条件を見つけ、それを補完することで、パフォーマンスが改善されることがあるからである。
 ただし、たとえば個人間のパフォーマンスのばらつきをそのように解消しようとして、考えられる限りの条件整備をしても大きな個人差が残る場合には、個人の特性(習得が用意ではない行動レパートリーの差や習得性好子や嫌子の違い)に配慮し、個人の特性はそのままで仕事の内容や方法が変わればパフォーマンスも改善され、その個人の行動が強化される確率も高まる環境が企業内の他部署に存在するのなら、配置転換という手段が有効になるだろう。
 企業としても個人でも、仕事をすることで強化される確率を上げていくことが働きがいにつながり、同時に、退職率や欠勤率、病気や事故などによる経費の削減にもつながる。経営者の仕事は、従業員にとっての強化される行動が、企業にとっても強化される行動になるように(つまり、利益を生む行動になるように)、好子の配分をして、最適化しやすい環境設定を支援するべきである。そのためには、同じ仕事、同じ部署で強化率を上げられるように支援するか、仕事を変え、部署を変えて強化率を上げるように支援する。

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