自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

もしドラッカーが行動分析家だったら:ドラッカーの名言を行動分析学から解釈する(その20) 「マーケティングは販売を不要にする」

名言〔第11位〕:「マーケティングは販売を不要にする」

解釈:

 もしかするとこれも誤訳かもしれません。引用元はこうなっています。

Indeed, selling and marketing are antithetical rather than synonymous or even complementary. There will always, one can assume, be need for some selling. But the aim of marketing is to make selling superfluous. The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or serice fits him and sells itself.  (Management, p.64)

 ここでの selling は「販売」ではなく、売り込みという意味での「営業」です。マーケティングが十分にできていれば、無理に売り込まなくてもその商品は売れて行くという意味ですから。

 もしそうなら、行動分析学からの解釈は以下のようになると思います。

 マーケティングとは、1) 顧客とって何が好子なのか、何が嫌子なのか、2) それらの好子や嫌子によってどのような行動が強化されるのか、3) 他に同じ機能をもたらす好子や嫌子はないか、4) そのような好子や嫌子の価値を高める確立操作は何か、5) 製品やサービスにどのようにこれらの好子や嫌子、もしくは機能を組み込めるか、6) 製品やサービスを入手する行動の随伴性は最適化されているか、などを調べ、7) 顧客の購買行動や商品、サービスの使用・利用行動が強化される随伴性を設定する仕事である。そして、これらの環境設定が十分にできていれば、顧客の購買行動は自発され、無理に売り込むという意味での営業行動はほとんど必要がなくなるのである。

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