自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

いじめ予防プログラムに関するいくつかの情報

現在、モーレツに忙しく時間がとれないのですが、いじめ予防プログラムに関する取材の申込みをいくつか受けました。そこで提供した情報をここに書込んでおきます。

まず、米国にはいじめから子どもを守るための法律が州ごとに整備されつつあります。各州の条文へのリンク、並びに第三者機関による評価が開示されているサイトがあります。

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A Watch-dog Organization - Advocating for Bullied Children & Reporting on State Anti Bullying Laws

少し古い(2001)のですが、Surgeon Generalによるレポート(Youth Violence)には、その時点でのいじめ防止プログラムの効果についてエビデンスが検証され、報告されています。ただし、いじめ防止プログラムはこのレポート全体のごく一部でしかなく、また、確実に効果のある「モデル」となるプログラムはまだないというのが結論です。その中ではノルウェーで開発され、世界各地で導入されている「オルヴェウスいじめ防止プログラム」が最も展望がありそうだ("promising")と評価されています。

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「オルヴェウスいじめ防止プログラム」には様々な要素がありますが、いじめられた子どもによる報告行動を増やすこと、そしてその報告を強化、維持するため、教員が必ず(管理職も含めた学校全体で)それに対応する(朝礼での訓示というレベルだけではなく、いじめた子どもに聞取りをしたり、場合によっては校長室へ呼び出すなどの指導をしたり)ことを子どもに対して約束し、実行するところが要ではないかと私は考えています。エビデンスとしては、確かにいじめを報告する%は減るのですが(平均30%減とうたわれています)、ゼロにはならない。でも「誰も助けてくれない」という状況をできるだけ作らないという点では大きな社会的妥当性があるのではないかと思います。いじめはそれを放置する大人の責任という理念には共感し、同意します。

学校全体で行動改善に取り組む、School-Wide Positive Behavioral Supportでも、SWPBSのシステムの上に、いじめの防止や低減のためのプログラムを追加する試みが始まっています。

Pbislogo

いじめをする行動は、いじめられている子どもの反応や周りの傍観者の反応により強化されているのではないかという仮説から、いじめられたら、まず「やめて」と言い(ジェスチャーでも示し)、その場から立ち去り(はむかったり、耐えたりせずに)、教員などの大人に報告するという、「STOP、WALK、TALK」の一連の行動を子どもたちに教え、その実行を強化するプログラムです。傍観者にも適用され、いじめられている子どもをみたら、いじめている子どもに「やめろ」と言い、いじめられている子どもをその場から逃がし、先生に報告させます。

このプログラムは下記の研究でその効果が確認されています(以下のリンクから論文をダウンロードできます)。アンケートではなく子どもの行動の直接観察による研究です。

Scott W. Ross & Robert H. Horner. (2009) Bully prevention in positive behavior support. Journal of Applied Behavior Analysis, 42, 747-759.

さらに、この「STOP、WALK、TALK」の研修資料も公開されていて、無料でダウンロードできます。

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http://www.pbis.org/school/bully_prevention.aspx

このプログラムでは「いじめ(bully)」という言葉がでてきません。SWPBIで設定される「他人を大事にしよう」という大目標の一部に位置づけ、色々な場面での具体例を数多く提示することで「いじめだかどうだかわからない」という解釈の罠にはまらないようにしているようです。

大津での事件発覚から、おそらく日本各地の学校でいじめ問題に関する見直しが進むと思われます。子どもたちにアンケートをとって校長先生や学級担任から訓示する、ただそれだけで終わらないように、より積極的、組織的に、また、いわゆる"専門家"の個人的な見解ではなく、エビデンスにもとづいて、子どもたちを守るプログラムが導入、開発され、学校が少しでも楽しく、学びがいのある場になっていくことを、今回こそ期待します。