自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

被災者の心の支援に:『サイコロジカル・ファーストエイド』翻訳本が無料でダウンロードできます。

 このたびの大震災で被災された方々の心のケアを支援するために、日本臨床心理士会日本心理臨床学会がさっそく「東日本大震災心理支援センター」を立ち上げたという。迅速な対応、素晴らしい。

 ただ、被災地に入るボランティアが増えると、心のケアどころか被災者にとって迷惑せんばんになる人もでてきてしまうようだ。

 私はこの領域の専門家ではないが、テレビなどのメディアで連日のように「ストレス」「こころ」「ボランティア」などが強調されているのをみると心配になる。“地震酔い”なんていうのも、それそのものは極めて正常な(健康)な反応なのに、極度のストレスが原因とか、リラクセーションが必要とか、あげくのはてに耳つぼに効果ありなんてでたらめチックな報道がまかり通っているのに立腹気味。

 そんなことを話していたら武藤崇先生(同志社大学)がとてもいい資料を紹介してくれた。兵庫県こころのケアセンターがwebページで無料公開している『サイコロジカル・ファーストエイド』である。

 これはアメリカの国立PTSDセンターと国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク(NCTSN)によって作成された手びき(Psychological First Aid: Field Operations Guide 2nd Edition)の翻訳版で、災害支援の現場での活動やコーディネートに携わっている人々のための具体的なノウハウが凝縮された資料である。

 たとえば、「避けるべき態度」として「被災者が体験したことや、いま体験していることを、思いこみで決めつけないでください」とか「災害にあった人すべてがトラウマを受けるとは考えないでください」、「病理化しないでください。災害に遭った人々が経験したことを考慮すれば、ほとんどの急性反応は了解可能で、予想範囲内のものです」、「反応を「症状」と呼ばないでください」、「また、「診断」「病気」「病理」「障害」などの観点から話をしないでください」などなどというように、心配していたことが見事にカバーされている。子どもの支援についても「子どもに十分な情緒的支えを提供できるよう、親の機能を補強し、支えてください」とある。これもまったくそうだろうと考えていたところ。

 兵庫県こころのケアセンターは、阪神・淡路大震災の後に、被災者や被害者の「こころのケア」に取り組む組織として設立された、全国初の拠点施設らしいが、失礼ながらこれまでその存在を知らなかった。こんないい資料をだしているとは素晴らしいじゃないですか。興味のある方は、ぜひ一度、お読み下さい。なにしろ無料ですから。

 それから臨床心理以外の心理専門家としては、もちろん「心のケア」は大切だとしても、もっと大事なのはまず衣食住の環境を整えることだと思う。体育館の雑魚寝状態で食事も睡眠も入浴も不備な状態なら、いくら心のケアしても焼け石に水のはず。とにかくまずはそこを改善すべきなのだと心理の専門家からも声を大きくすべきと考える。