自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

やさしい経済学

日経新聞の連載『やさしい経済学』が面白い。

しばらく前までは大阪大学の池田新介先生が時間割引について解説していた。

マクロ経済学の専門家だそうだが、8回の連載中なんと3回ぶんの記事で実験的行動分析学の研究を引用されていた。

それも、ハーンスタイン、エインズリー、マツール(メイザー(Mazur)先生のことあるね)の、ハトを被験体にしたマッチング法則やセルフコントロールの実験である。

限られた紙面への掲載なので引用元の情報がないが、おそらくいずれも Journal of the Experimental Behavior Analysis に掲載された研究論文だと思われる。

80年代終盤にヒットした法廷ドラマ L.A. Law (注) のエピソードの一つで、政府が無駄に出費している研究の例として、成人男性が一日にトイレのふたを開け閉めする回数を調べる研究とハトのセルフコントロールの実験がやり玉にあげられていた(ように記憶している)。

それが今ではノーベル賞を受賞するくらい社会的に認知された“行動経済学”の専門家がハトの実験を引用するのだから、基礎研究というものは将来どう化けるわからないものである。たとえそのときに重要性がわからなくても、やはり投資は続けるべきだ。

『やさしい経済学』では、池田先生の連載が終わった後、しばらくして、今は大阪大学の田中沙織先生が「神経経済学で脳に迫る」という題目で継続している。田中先生の記事では、行動分析学から発展した“強化学習”の理論が神経経済学でいかに援用されているかが紹介されている。

実はこのところ“教育経済学”の本を何冊か読んだのだが、その分析はまるで行動分析学的で驚いた。ものすごいパラレルワールドなのである。

学会間の連携は今のところないが、共同シンポジウムなんかを企画してみてもいいかもしれない。

(注)留学中によく再放送していて死ぬほど観たドラマ。スーザン・デイ演じるグレース・ヴァン・オーウェンが大好きだった(ホレぼれ)。