自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

人はなぜ宝くじを買うのか?

今日はサマージャンボの抽せん日。2億円を夢みてうきうきしている人も多いのではないだろうか。自分もバラを30枚購入している。目指すはポルシェカイエン。

自分も含めて、そういう人たちの夢に水をさす気は毛頭ないのだが、宝くじで高額当選する確率は極めて低い。35を過ぎた女性が結婚できる確率は雷に打たれて死ぬ確率より低いという性差別的なアメリカンジョークがあるが、確率論から言えば、宝くじで2億円あたるよりも宝くじを買いに行く途中で交通事故で死亡する確率の方がはるかに高いのだ。

それでも人は宝くじを買い続ける。なぜだろうか?

友野典夫先生(明治大学)は、行動経済学の研究から、確率が低いときには過大評価が起り、利得に関するリスク追求と損失に関するリスク回避性につながるとし、これで、

当選確率がきわめて低いにもかかわらず宝くじを争って購入することや、感染の恐れがきわめて低いのにもかかわらず、BSEを恐れて牛肉を回避する行動が理解できる(p.136)

としている。

しかし、交通事故のときの死亡確率が高まることがわかってもシートベルトをつけない人がいるように、また、カードを落としたり盗まれたら多大な被害を被ることはわかっているのにATMカードのパスワードに生年月日などを設定する人が多いように、低確率で起こる事象は実は行動の頻度に影響しない。

私は米国産牛肉の輸入解禁後、しばらくすれば、米国産牛肉を使った牛丼を注文する人や、スーパーなどでも米国産牛肉を購入する人が必ずでてくると思う。

宝くじを買う人は、当選確率を過大評価しているから購入するわけではないと思う。そういう傾向があったとしても主要因ではないはずだ。

宝くじを買うことによる明らかな環境変化がある。当選したときのことを考えるという行動だ。「2億円あれば住宅ローンを完済できるなぁ。カイエン買って、それでもまだ余るなぁ。少しは寄付もしようかな、かっこいいし....」てな具合である。

私は宝くじの購入行動を強化しているのはこうした「夢」行動だと思う。そして、宝くじを買うという行動は、こうした「夢」行動を強化する言語行動や言語刺激の強化力を高める確立操作になっているのだ。

宝くじを買わなくても夢はみられる。でもその夢には「現実感」がない。宝くじを購入しているという状況は、「住宅ローン完済」とか「カイエン」ということばやイメージの強化力を高めているのである。まさに夢を買っているわけだ。

「現実感」を与えているのが「買わないとあたらない」という事実だ。買ったらどのくらいの確率であたるのかということはこのプロセスには関係ない。買えば必ず上記の確立操作が機能するのだから。そういう意味では確率はp = 1なのである。

それから、これは『行動分析学入門』でも論じていることだが、“ニアミス”も宝くじ購入行動に影響する。「あと2桁違えば特賞だったのに!」ってやつである。ただし、宝くじの場合には、購入時と抽選後の確認との間には時間的な差があるから、ニアミスが購入行動を強化するわけではなく、おそらく「惜しかった。次こそは」のような言語行動を強化するのだろう。