自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

交通事故の原因分析

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数年前から鳴門市の交通事故原因調査部会の委員というのをやっている。毎年1〜2回、重大事故の発生現場に行き、観察・検証し、事故調書などの資料などを読んで原因を分析し、会議で対策を考え、報告書を提出する仕事だ。

 さながら明智小五郎にでもなったつもりで、「運転者からは信号がどのように見えていたのだろうか」とか「ここで被害者に気づいてブレーキを踏んだとして、それでクルマがここで停車したとすれば、スピードはかなりでていたことになる」とか、現場を見歩きながら考える。デジカメで写真を撮ったりもする。

 事故の当事者にインタビューできるわけではない。警察が用意してくれる資料にこちらの知りたい情報がすべて記載されているわけでもない(たとえば、運転中「被疑者」が携帯メールをしていたかどうかなどの情報さえもなかったりする)。警察がまとめる資料の《原因》欄には、「前方不注意」とか「信号不確認」とか「安全速度不履行」など、死人テストをパスしない項目が並んでいる。

 行動分析家としては「前方不注意」ということなら、なぜ「不注意」だったのかをやはり考えたい。たとえば、前方を見ずにどこを見ていたのか?(対立行動があったのか) あるいは居眠りや目をつぶるなどして何も見ていなかったのか?(行動そのものが生じていなかったのか) それとも視界に歩行者は入っていたけど減速行動を制御しない理由があったのか?(飲酒? 視界中の他の刺激への反応? まさか故意とか?)

 

 事故の《本当の原因》を見つけることは難しい。しかし「前方不注意」で話を終わらせないことが大切だし、そこから何らかの対策を考え出すところで、行動分析学が貢献できると思う。

 

 実際、この調査部会では、事故を起こしやすくしている環境側の要因が特定できるのであれば、それらをできるだけ排除していこうと積極的に取り組んでいる。会議には国交省の関連部局の担当者も出席し、道路に補足線を引くとか、停止線の位置を変えるとか、かなり具体的な解決策が話し合われる。

 

 惜しむらくは、こうした会議で提案した解決策を最後までフォローアップできないことである。2年前に提案した補足線は確かに引かれていたけど、この会議の成果なのかどうかは知らされていないし、それで事故が減ったかどうかも分からない。そもそも重大事故の件数は市で年数回しかないので、特定地点で一つの解決策を講じても、その効果を重大事故の件数でのみ測定する限り、評価には数年以上かかることになり、あまり有用ではないけれど。

 

 先週の会議では国道11号線の事故多発交差点の現地調査および分析を行った。ここは自分も、同会議に出席しているうちの大学の松井先生も、通勤で行き来する交差点であり、ヒヤリやドキリが多い場所である。会議でもいろいろな対策が話し合われた。

 

 果たして、実際にはどんな対策が講じられることになるのだろう。