自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

脳と行動

先日の鳴門教育大学附属養護学校の研究発表会では、「自閉症」についてあらためて考えさせられることがいろいろあった。あまりにいろいろあったので、まとめて時間をとって、じっくり考えて文章にすることにし、来年度のプロジェクトリストに追加した。

いろいろなことのうちの一つ。

自閉症の原因は脳の器質的な障害にあると言われている。その原因は遺伝や妊娠・出産時の母体環境などさまざまであり、特定されていない。そこまでは納得できるのだが、脳の器質的な障害と脳の機能的な障害、そしてそれとあたかも一対一で対応しているかのように考えられている行動的な特徴との関係はどうにも納得できないことが多い。

たとえば、「心の理論」で指摘されるように、自閉症を持った人たちは他人の気持ちを読み取ることが苦手であると言われている。「マインドブラインドネス」などとも言われる。

fMRIやPETなど、ある行動をしているときに脳の中のどの部位が活性化しているか調べる装置が開発されてきて、たとえば、他者の気持ちを読み取る課題をしているときには、前頭葉の部位が活性化することがわかったりする。そして、同じような装置で、自閉症を持った人たちの脳の活動を観察すると、前頭葉の部位の活動が健常の人に比べて低いことがわかったりする。

しかしながら、そのことから、自閉症の人たちは前頭葉の部位に障害があるために他者の気持ちを読み取りにくくなっていると結論するのはあまりに短絡的というか、少なくとも早計なように感じる。

もしかしたら、「他者の気持ちを読み取る」ことが学習されるにつれて、前頭葉のある部位が活性化していくのかもしれない。そして自閉症のもっと根本的な障害(たとえば感覚過敏。そして刺激の過剰選択性から推測される注意の狭さなど)から、そうした学習が起こることが妨害される可能性はないのだろうか。

神経生理学的な事実と、行動の事実とを結びつけるキーワードは「学習」である。自閉症の人たちがみせる一見不思議な行動と彼らの脳の間には、自閉症ゆえに生じる独特の「学習」があるように思う。それをひもとくのが行動分析家の役目かもしれない。