自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

e-Learningと大学教育

大学のお仕事で『大学教育の多様化とe-Learningの活用』という研究会に行ってきました。

主催は教育システム情報学会(JSiSE)。

発表が始まると同時に会場のあちこちから窓系OSの起動音が.... なんか居心地悪いなぁ。クールビズどころか、Yシャツネクタイの人が多いし... あ、企業の展示もあるんだっけ。

(ちなみに私はジーンズにポロシャツでした.... ^^;;)。

アメリカで起こっていることは10年から30年後に日本でも起こるというテーセツどおり、今や日本の大学は猫も杓子もe-Learningです。

アメリカではe-Learningだけで学位がとれる大学まで乱立し、結局、採算もとれずにつぶれていった... というオチもよくご存知の人たちが、現在、日本で同じことをしているわけです(フシギですね)。

そもそも、何がe-Learningで何がe-Learningでないかもはっきりしないような概念だから「e-Learningで大学教育が改善されるか?」なんて問いはまったく無意味なわけ。

せっかくネットやパソコンがこれだけ普及したんだから、それが大学教育にうまく使えるようなら、使ったるわいくらいの姿勢がちょうどいいのではないかと思うんだけど、なぜか「全学的取組み」、なぜか「何千万円もするシステム」、なぜか「教員の負担は増えるばかり」なのですな。

なぜか?なんて書いてますけど、理由はわかっていて、e-Learningを導入すると、いろんなところからお金がもらえる随伴性があるからなんです。意外に単純。

不条理!とか、それじゃ、いらないダムつくる公共事業と同じじゃん!! と怒り心頭に達する人も多いかもしれません。自分もそう思うし....  だけど、いっかいの大学教員にはどうしようもないわけなのですね。

だから、それなら、せっかく流れて消えていくお金をできるだけ有効利用しましょうね、というのが私のスタンス。

んで、研究会。

面白かったのは次の2つ。

・行動分析家の F. S. ケラーが開発したPSI(Personalized Systems of Instruction)が注目されていること。

・リッチなコンテンツはe-Learningの必要条件でも十分条件でもないという広島大学の安武公一先生の発表(というか主張)。

PSIについては、金沢大学から早稲大学に移られた向後千春先生がご活躍されていている影響みたい。

「行動分析」なんておそらく聞いたこともない人たちから見直されているってところが面白い。

PSIについては、どこかに文献リストを作っておいたような気がするんだけど、見つかりません。そのうち見つけてアップします。

安武先生の主張は半分正しく、半分間違っていると思う。

確かに、パワポの資料と発表者の口パク動画が同期するようなコンテンツや、教科書をそのままwebに載せたようなページはいらないと思う。あってもいいけど、たぶんサバイブしないと思います(←かなり確信ある予測)。

e-Learningで何かを教えるのに必要不可欠なのはコンテンツよりもデザイン。色彩とかレイアウトという意味じゃなくて、学習が生じるためのインストラクショナルデザインだ。

とはいっても、実はこれはe-Learningの話に限らない。対面授業だって同じこと。

つまり、実はe-Learningが成功するかどうかは、e-Learningじゃない授業や指導法でうまく教えているかどうかにかかっている。

ふだんの授業から、デザインなく(膨大な資料とかよもやま話などのコンテンツはあったとしても)教えている人の場合は、それをそのままe-Learningに持っていくと、うまく教えられていないのがバレやすいってことだと思うのだ。

安武先生が紹介されたのは学生にWikiを使ってコンテンツを作らせちゃうという授業なんだけど、確かに教員側が提供するコンテンツは最低限かもしれないけど、学生が学習していくための環境はちゃんとデザインしてありました。

“リッチ・コンテンツ”というのは、そういうデザインがないのをバレないようにするための隠れ蓑と言えないこともない。

こんなことを書いちゃっても大丈夫そうな懐の広く深そうな雰囲気の学会だったので、それにモーレツに忙しかった週の週末なので、少しクダケて書いちゃいました。

あ、じぶん、会員ではありません。 (._.)