自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

北京ABAレポート#4:九九は日本の誇りです

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An Investigation of the Relationship Among Fluency, Application for Multiplication, and Divergent Thinking in Japanese Fifth-Graders. Dr. SATORU SHIMAMUNE (Naruto University of Education) and Dr. Richard M. Kubina, Jr. (Penn State University)

手前みそですが、自分たちの研究のポスター発表。

小学校5年生の、(1)数字を書く、(2)九九、(3)2桁のかけ算、(4)拡散的思考という4つの行動の正答スピード(rate)を測定し、その相関関係を分析した研究。

数字を書く、九九、2桁のかけ算の間には高い相関が見られたが、拡散的思考との間には相関がなく、こうした力を教えるためには別に指導プログラムが必要であることが示唆された(同様のデータは大学生を対象として実験でも得られて、今年の日本行動分析学会で発表した)。

また、日米の小学生のデータを比較したところ、九九、2桁のかけ算ともに、日本の小学生の方が正答率、正答スピードともに有意に高かった。正答率を比べるとどちらも95%以上で天井効果によって教育的には大きな違いにならない(ただし統計的には有意)。しかし、正答スピードを比べるとこの差がもっとはっきりする。さらに、九九よりも2桁のかけ算で差が広がることもわかる。スキナーが提唱したように、行動の頻度を指標とする方が、正答率よりも、より感受性が高いといえる。

それにしても、なぜ、ここまで九九の正答スピードに差が出るのか?

実はある仮説をもっていた。それは日本の「九九」が正答スピードを上げるのに工夫されていること。「ににんがし にさんがろく にしがはち ....」子どもの頃にあたりまえのように覚えさせられた九九。ところがアメリカではこういう暗記法は一般ではないのだ。

2 x 2 = 4 なら "two times two is four" とそのまんま覚える。「ににんがし」に比べると、音韻の数も多いし、韻も踏んでいない。「にはちじゅうろく」なら「とぅーたいむすえいといずしっくすてぃーん」だ。これじゃスピードを上げようにもいわゆる"fluency blocker"になっていて上がらない。

面白かったのは、ポスター発表を見に来てくれた各国からの参加者に九九の覚え方を聞いてみた結果。中国語も韓国語も「x」や「=」の部分は発音しない。ヒンディにおいては、なんと「x」の右側の数字はこの文脈では発音が変わるという。

さらにPrecision Teachingで流暢性を高める指導をしているシアトルのMorningside Schoolでは、2のグループ、5のグループというように、九九の各段を別々に覚えることで正答スピードを上げる工夫をしているそうだ。

「九九」は日本の誇り。ぜひ九九のスピードを上げる指導を続けて下さい。

(画像は道城裕貴さん(関西学院大学)から頂きました)