自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

はるがきた:やんちゃな小犬の子育日記(番外編9) 飼い犬と飼い主の顔は似ている。そしてその手がかりは目にあるという、中島定彦先生の論文がでました。

「はるちゃん、パパに似てるよねぇ〜」と言われることがあります。端正な顔をした犬なので、A=B、B≒C、関係性枠で A=C となり、「いや、そんなことないですよ(私は端正な顔はしていないから)」と否定したくなりますが、同時に何だか嬉しい気持ちもします。

 以前、ご紹介したように、飼い犬と飼い主の顔の類似性の研究というのがあり、関西学院大学の中島定彦先生が、このテーマでいい仕事をしているのですが、最新の研究では類似性の源が目のあたりにあることがわかってきたそうです(電子版へのリンク)。

  • Nakajima, S. (2013) Dogs and owners resemble each other in the eye region.  Anthrozoös , 26(4), 551-556.

 飼い犬と飼い主の組合わせ20組の写真を掲載したシートと、ペアを入れ違えた20組の写真を掲載したシートを比べさせ、どちらのページがより似ている組合わせのページかを判断させます。すると、顔全体を比べさせる条件では8割の参加者が正しい方のシートを選びます。口の辺りを隠した条件ではあまり正解率が落ちませんが、目の辺りを隠す条件では正解率がチャンスレベルまで落ちてしまいます。

 中島先生は、当初、飼い犬と飼い主の顔が似ていること自体に懐疑的で、この実験も、そんなはずはないだろうなとの思いで行ったそうです。意外な発見ということになります。ですが、この実験により、飼い主が太り気味だと飼い犬も太り気味とか、髪の毛の長い女性は耳がたれた犬を好むとか、女性より男性の方が大きな犬を好むとか、そのような要因の影響を排除するように計画されていて、ものの見事に、そういうことではないことが示されています。

 では、なぜ、目の周辺が類似してくるのでしょうか?

 そういわれてみれば、ですが、散歩中に出会う飼い主さんと愛犬の組合わせを思い出すと、飼い主さんが社交的なほど(挨拶したり、声をかけてきたり、うちの犬をかまってくれたり)、飼い犬も社交的であることが多いような気もします。社交的な犬(積極的に、吠えたり、毛を逆立てたりせず、こちらに近寄ってくる犬)は、これはまったくの主観ですが、目元が穏やかな気もします。

 飼い主さんが社交的であれば、飼い犬も他の人や他の犬と接触する機会が増え、いわゆる「社会化」が進みやすく、対人、対犬状況で落ち着いていられる犬に育ちやすいのかもしれません。

 また、叱って育て、犬に「服従」を求める飼い主さんは、これもまったくの主観ですが、散歩中もニコニコせず、しかめっ面の人が多いのかもしれません。そして、叱って育てられる犬は、不安状態が高く、回避行動が多くなり、目元が厳しく、あるいは不安げになるのかもしれません。

 犬は飼い主の気持ちがよくわかると言います。確かに、うちの犬も、電話越しに文句を言っているときのように(声を荒げているときなどは)不安そうな顔をしています。飼い主が緊張していると、犬も緊張するなんてこともあるのかもしれません。

 実験に使った刺激はドッグフェスティバルに来場していたお客さんに実験者がその場で依頼して撮影した写真ということです。見知らぬ人(実験者)や状況(撮影)という事態ですから、そのような事態にどのように反応する人と犬なのかというところが、目の周辺が効いてくる理由の一つとして考えられるかもしれませんね。

 飼い主にはわざと怒ったり、悲しんだり、喜んだりする表情をしてもらって、しかもそれを犬の撮影とは別の機会に行い、それと犬の写真を組み合わせて使ったりしたらどうなるのかなぁ。