自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

日本心理学会第77回大会チュートリアルワークショップのフォローアップ(その2.5)「機能分析/関数分析」について

(その3に行く前に2.5を挿入します)

以前、こんなツイートをしました。

日心のワークショップでは、行動分析学の「機能分析(functional analysis)」とは、問題行動の機能を、物の要求、注目獲得、課題回避、自己刺激などの、臨床的にはよくありがちな代表的な「機能」に分類することではなく、オペラントだけではなくレスポンデントの機能も含め、標的行動以外の行動も含め(両立しない行動の並立随伴性など)、あるいは確立操作や強化スケジュール、弁別刺激やプロンプトの有無や提示のタイミングなども含め、とにかく何が行動の制御変数となっているかを調べることであるという話をしました。

それで、その後、別件もあり、色々と文献を読んでいると、岡山大学の長谷川芳典先生が以下のように書かれているのを発見しました(色々考えた末に出した結論が、後から調べるとすでに長谷川先生が論文で書かれていたのを見つける、というのは日常茶飯事的によくあることです)。

実験的行動分析学のいちばんの特徴は「functional analysis」にある。「functional analysis」 は通常「機能分析」と翻訳されているが(Skinner, 1953, 原書 35 頁、訳書 41 頁)、「function」 には「関数」という意味もあり、じっさい、物理的用語で記述された、環境側の諸要因(独立変数)と、行動(従属変数)との関数関係を定立し、行動の定量的な予測やコントロールを目ざすことが主要な課題であるとされてきた。

長谷川芳典 (2011) 徹底的行動主義の再構成—行動随伴性概念の拡張とその限界を探る— 岡山大学文学部紀要, 55, 1-15.

星槎大学の杉山尚子先生も「functional analysis」を「機能分析」ではなく「関数分析」と訳すことを主張されておりますが、長谷川先生も、単純に行動が上がったり下がったりすることだけではなく、どのくらい上下するのか、どのように上下するのか、質的な変化までも含めて予測制御することを可能にするのが「関数」分析であるとされています。

数学的(統計学的?)には、y=f(x) のxやyがノンパラであっても(介入の有無や行動変化の有無)「関数」と呼ぶのではないかと思うので(自信ありませんが)、そうであれば「functional analysis」を「関数分析」と訳すのも悪くないなと思います。

ただ、「関数分析」という訳語には若干の抵抗感もあります。それは、行動分析学個々の研究は、その研究だけで汎用的な関数関係を見いだすようには設計されていないからです。応用行動分析学の研究は特にそうです。関数関係が見いだせたとしても、それはその研究が対象とした人や行動や場面に限定された関数関係です。それが汎用的なものかどうかは他の研究で再現されるかどうかを待たないとなりません。

ですので、「行動分析学という学問の目的は<関数分析>を明らかにすることである」というフレーズには違和感は感じませんが、「この研究の目的は<関数分析>の同定である」となると、特に応用研究ではフワフワした違和感を覚えます。

訳語に関する議論は、元の用語や概念の定義を見直したり、詳細に分析するきっかけとなるのなら意義があると思いますので、そういう文脈では、面白いテーマの一つになるかもしれないと思い、捕足しました。