ハズバンダリー・トレーニングとは、動物の健康維持のために、血圧や体温を測定したり、歯を磨いたり、シャンプーしたりするときに、動物が嫌がらないように、それどころか自分から協力するように教える方法で、多くの動物園や水族館で使われている訓練法です。
たとえば、秋田市大森山動物園の柴田典弘さんは、キリンのハズバンダリー・トレーニングの動画を公開してくれています。
人に触られたり、器具を付けられたり、口や肛門に何かを入れられたりすることは動物の不安や攻撃行動を誘発する可能性がある刺激ですが、個体差があったり、拮抗条件づけでそうした行動が減るところをみると、必ずしも生得性の機能(無条件刺激や生得性の確立操作)ではないのかもしれません。
拒否したり、逃げようとしたり、威嚇したりする反応は、きっかけはレスポンデントでも、そうした行動で嫌悪事態がなくなることで強化された、逃避・回避オペラントなのかもしれません。
ハズバンダリー・トレーニングの効果や仕組みは「拮抗条件づけ」で説明されることが多いようです。レスポンデント的な効果だけではなく(不安に拮抗する、フードに対する反射)、動いたり、逃げたりしたときに、FTもしくはVTで提示するフードを停止することでこれが阻止の随伴性となり、好子出現阻止によって弱化されているようにも思えます。
うちの犬は元々どこを触られても怒らないです(だからこそ「飼いやすい、いい犬ですよ」と奨めていただいたわけです)。でも、散歩から帰った後に、たらいの中に脚を入れて洗われたり、ブラシで毛をとかされるのには、抵抗していました。吠えたり、噛んだりはしませんが、寄ってこなかったり、体重を反対側にかけていく感じの、ゆる〜い拒否反応を示していました。
そこで、ホーム・ハズバンダリーを始めました。
散歩から帰ると、玄関から風呂場に行き、濡れタオルで顔と体を拭き、たらいの中で脚を洗い、洗い終わったらタオルで脚を拭いています。最初の頃は、玄関から風呂場に連れてくるのに苦労していました。玄関で座り込んでしまうのです。名前を呼んではいけないと思ったので(呼び声に応えて来たときに嫌なことがあると、呼んでもこなくなるから)、結局、リードをひっぱったり、抱えていったりしていました。
そこでハズバンダリーの発想を導入。引っぱるのも、かかえるのも止め、代わりに、風呂場の椅子におやつをひとかけら置いておくようにしました(最初の数回は抱えていき、おやつを食べさせました)。しばらくすると、放置したリードを引きずりながら、自分から風呂場に来るようになりました。
たらいへの入水に関しては、最初は前脚を身体的ガイダンスで入れ、腰を少し押してやり、両脚が入ったら、フードをあげていました。しばらくすると、腰のプッシュはいらなくなりました。数ヶ月後には、ガイダンスせず少し待つと、自分から前脚を入れるようになりました。初発反応には多めのフードを与えました(すごい感動!)。以来、たらいには、指と声のプロンプトで入るようになっています(どちらもなくても入ることもあるし、注意がそれていて入らないこともあります。たぶん根気よく待てば自分から入ると思いますが、朝の忙しい時間などは待てずにプロンプトしてしまいます)。
タオルで顔と体を拭くには私の前方に縦方向に向いてもらえると作業が楽なのですが、最初はこちらが無理やりに体を動かし、押さえていました。これも私の方を向いたらおやつをあげるようにしました。ここは、どちらかというとフードで誘導して形成し、今でも誘導を抜いていない箇所です(誘導でも問題ないので)。
百聞は一見に如かず。こちらが現在の動画です。iPadで撮影したのが気になったのか、カメラ目線です(笑)。
ブラッシングは最初はほぼ数秒毎におやつをあげながらブラシをかけるところから始めました。おやつは目に見えるところに置き、でも動いてそちらに近づいたらブロックしました。つまり、数秒のうちにブラシを1−2回かけ、その間動かなければすぐにおやつを一つあげ、またブラシを1−2回かけ、動かなければおやつをあげる...ということを繰り返しました。
ブラッシングを嫌ってというより、目の前のおやつを食べようとして動こうとすることの方が多かったかもしれませんが、これも数ヶ月続けるうちに、食べようとする動きは減り、数秒は5−6秒に、そして十数秒にと伸びていきました。
こちらが現在の動画です。腰から後脚をブラッシングするときに、お座りをしてしまうので、今は手で支えています。「たって」のコマンドが不十分なのでこれを教えるのと、ブラシの方向に逆らって立ち続けることを教えるのが今後の課題です。
自分はアニマルトレーニングの専門家でも、しつけの訓練士でもないし、そういう研修やトレーニングも受けていません。たぶん、専門家がやれば数セッションもかからずに教えられることだと思うのですが、飼い主にはスキルはなくとも時間があります。数ヶ月かけてゆっくり教えようと思えば、それなりの成果はでそうですよ。
ブラッシングやシャンプーなどでてこずっている飼い主の皆さま、お試しあれ。