自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

はるがきた:やんちゃな小犬の子育日記(12) 室内の移動を強化する

 家の中で移動させたいときに「おいで」が使えなかったり、使いたくないこともあります。

 「おいで」と呼んで犬が来たときに嫌なことがあると、「おいで」と呼んでもこなくなるということは、しつけの本によく書いてあることです。爪切りとかシャンプーとか、散歩が嫌いな子に首輪をつけるとか、ドッグランで遊んでいるときにリードをつけて帰るとか....

 自分もこの失敗をしてしまいました。昨年の秋、いつもボール投げで遊んでいる草むらに、近所の野良猫用に埋めた餌を(そういうことをする人がいるんですね)、はるが見つけて食べてしまいました。

 これがものすごい強化だったらしく、以来、ボール投げはそっちのけで猫餌を探すようになってしまいました(猫餌が強力な好子なのか、草むらで餌を探してみつけて食べるという随伴性が強力なのかは不明です)。それで自分も気づいたのですが、猫餌はその草むらだけではなく、公園のあちこちにまかれていたのです。公園の中を散歩しているときにも、はるがまるで臭気訓練しているときのように、鼻をくんくんさせ、猫餌を見つけるようになりました。

 実は最初は猫餌とはわからず、ポイ捨てされたゴミとか、最悪、犬虐待のための毒入餌かもしれないと疑ってもいたので、「だめ」や「おいで」とか、あろうことか名前まで呼んで、それでも来ないからリードを引っぱって無理やりその場から引き離していました。口の中に指を突っ込んで食べようとしたものを無理やり出したこともありました。

 当然のように、室内でさえも「おいで」が効かなくなりました。名前を呼んでも反応が薄くなりました(ドッグランから帰るときにも呼び戻しが効かなくなったのですが、これについてはまた別の機会に)。

随伴性を考えてみれば、

 「おいで」 → 飼い主の方にいく → 猫餌が食べられなくなる

ですから、あたりまえですね。

 「おいで」 → その場で踏ん張る(リードをひっぱる) → 猫餌が食べられる

でさえあります。さらに、何かを食べようとしているのを見つけたら、私も焦って呼んで引っぱるので)。

 リードを引っぱられる → その場で踏ん張る(反対方向にリードをひっぱる) → 猫餌が食べられる

なんていう、誤学習まで生じてしまいます。これでそれまで徐々にできてきていたルースリードでのお散歩が完全に崩れて元の木阿弥に戻ってしまったことはここでお話しました。

 「おいで」で来なくなるどころか、反対方向にリードをひっぱることを教えてしまったわけです。

 家の中でも同じです。

ベランダで日向ぼっこしているときに、

 「おいで」 → 部屋に戻る → 日向ぼっこなし

散歩に行きたくないのに、

 「おいで」 → くる → 首輪・リードをつけられる

散歩から帰ってきて、

 「おいで」 → くる → 脚を洗われる

ベッドで一緒に寝ていて、朝起きると、

 「おいで」 → くる → 飼い主が家事で忙しくしてほったらかし

と、よく考えると、罠だらけなんですね。

 フードを使って付加的随伴性を追加すれば、「くる」行動を増やすこともできますが、そうすると指示待ちになるということもよくわかりました。うちの場合、首輪・リードをつけて「おいで」で居間から台所、「おいで」で廊下、「おいで」で玄関、「おいで」で外、というように、移動しては次のコマンドを待つ、というような状態になってしまいました。

 そこで、毎日ルーチンでする移動については、できるだけ「おいで」のコマンドなしに、はるが自発的に動くように、強化随伴性を見直しました。

手続きは単純で、たとえば、ベランダから戻るのは、

 (特になし)→ 部屋に戻る → クレートにフードあり

としました。

 介入を始めたのが冬だったこともあり(元々ベランダにそれほど長居するわけではなく)、すぐにはまりました。ベランダの窓をひっかき、あけてやると、脱兎のごとくクレートに走り込みます。

 ただ、うまく行き過ぎて、ときにベランダと部屋の出入の頻度が増えたのと、ベランダにでてから私がクレートにフードを仕込むのを観察する行動がでるようになってしまっのがたまにきず。

 朝、寝室から居間への移動については、すでに書きましたが、実は逆方向、つまり、夜寝るときの居間から寝室はずっと前からそうしていました(居間で遊んでたり、寝てたりすると、呼んでも来なかったので)。

 散歩にでかけるときは、途中のフード提示を省き、玄関の外にでたときの一回にしたところ、しばらく時間(回数)がかかりましたが(たぶん2-3週間)、途中で止まることなく、移動してくれるようになりました。この間、指示待ちで止まるはるに、「おいで」は言わず、自分が先に進んだり、リードをちょこっとだけ引くようなプロンプトは使いましたが、それもだんだんとフェイドアウトしました。はるが自分で動き出すまで辛抱強く待つのがポイントだったと思います。

 散歩から帰った後は風呂場で体を拭き、トレイに脚を入れて洗っています。おそらくはるにとって、そんなに気分のいいものではないと思うので、やはり「おいで」はやめ、フード提示は、カバーをかぶせたバスタブの上に上がったとき(その後体を拭きます)と、風呂場に降りてトレイの中に入ったときだけにしました(その後、脚を洗います)。そのときどき「アップ」とか「ダウン」とか桶の中を指差すようなプロンプトはだしていますが、それ以外はコマンドなしで移動できるようになっています。

 バスタブから降りて、ぬるま湯をためたトレイの中に自分で4つ脚を入れてくれたときには感動しました。

 コマンドなし、最低限のプロンプトだけで教えると時間はかかりますが、学習が出来上がると、あとが楽だし、なんだか自分の子がとっても賢くみえてきますね(←親バカの自慢話でした  ^^)。