『調査月報』2021年5月号(5月5日発行)に掲載された「行動分析学―効率的な時間の使い方―」の補足資料です。本文は日本政策金融公庫のサイトを参照してください。
「時間を効率的に使う」をテーマに行われたじぶん実験や私が関わった企業における事例から,よくある問題と解決策をまとめて示そう。
仕事が不明確
何を,どれだけ,どのように,いつまでにすべきかが決まっていないと,仕事に取り掛かる行動が自発されにくく,先延ばしされたり,逆に必要以上に時間をかけたりすることになる。
上司として部下に仕事を依頼するときに,期待する成果をこのように明示するだけで,仕事にかける時間とタイミングが最適化されやすくなる。島宗(2015)ではこれを「成果のコミュニケーション公式」と呼んでいる(p. 52)。指示をし直したり,仕事をやり直したり,個人攻撃の罠に陥って部下に延々と説教をするという無駄な時間も削減できるし,部下が仕事に取り組む行動を感謝や承認の声かけで強化しやすくなる。
部下として上司から仕事を依頼されたときに指示の内容が不明確であれば,期待する成果をこのように説明することを求めるとよい。自分で自分の仕事を決められるときにも同じである。
仕事のまとまりが大きすぎる
仕事が明確になると,仕事に取り組み,完了することがそれだけでも強化として作用するようになる。ただし完了までにかかる時間と手間が大きすぎると行動は持続されない。そこで大きな仕事は小さく分割する。経験則だが,30分から長くても1時間で終わるくらいの量を目安に分割すると行動は持続されやすくなる。上司として部下に仕事を依頼するときには,この点も配慮し,部下が自ら分割できそうなら任せ,分割できていなさそうなら分割の仕方を教えると良い。分割すれば仕事の途中経過を,やはり感謝や承認の声かけよって強化できるようになるし,そうした機会を増やせる。強化率は仕事のやりがいに直結するし,"集中"した状態もつくりやすくなる。
仕事のやり方や取り組む順序が不自由である
仕事は成果を定義し,やり方は担当者に任せる。やり方を指導するのは,期待した成果があがってこないときだけにする。取り組む順序も「いつまでに」が満たされている限り,担当者任せにする。期待した成果があがってきたときに,感謝し,承認することで,パート職員を対象とした事例からもわかるように,やり方は担当者が工夫するようになる。やり方や順序を強制すると,担当者が得意とする行動や工夫をする行動を強化する機会を逸してしまうし,不必要で無駄な工程も省かれない。反感も生じやすくなる。
仕事を思うように進められない
仕事を分割した上で,自分のペースで進められる作業と他者のペースに依存する作業に分け,ある時点で取り組み可能な作業一覧を常時保有しておくようにすると,上司や同僚,顧客待ちで仕事を先に進められないという事態を回避できる。昨今そのような余裕がある企業も少なくなっているが,自己研鑽のための学習課題も自分のペースで進められる作業として用意しておくと無駄な空き時間をつくらなくて済む。作業一覧には自分から進んで取り組みたいと思うものもあれば,そうではないものもあるだろう。後者を一つ完了させたら前者の一つに取り組めるというルールを決めると,これも強化になり,作業が進みやすくなることも知っていて損はないだろう。
同じような仕事なのにはかどらない
毎日何回もする作業と違い,数ヶ月や一年に一度しかしない作業は,慣れているつもりでも時間がかかったり,ミスが生じてやり直したりすることがある。そのような作業については一度時間をかけてマニュアルを作ると良い。自分用のマニュアルを同じ仕事をするたびに改訂していき,職場で共有すると,標的行動を支援する環境として機能するようになる。こうした行動支援システムとしてのマニュアル活用は無印良品の実践が参考になる(松井, 2013)。
引用文献
- 松井忠三 (2013). 無印良品は仕組みが9割―仕事はシンプルにやりなさい― 角川書店
- 島宗 理 (1999). 組織行動マネジメントの歴史と現状とこれからの課題 行動分析学研究, 14, 4-14. https://doi.org/10.24456/jjba.14.1_4
- 島宗 理 (2000). パフォーマンス・マネジメント--問題解決のための行動分析学-- 米田出版
- 島宗 理 (2014). 使える行動分析学--じぶん実験のすすめ-- 筑摩書房
- 島宗 理 (2015). リーダーのための行動分析学入門―部下を育てる! 強いチームをつくる! ― 日本実業出版社
- 島宗 理・若松克則 (2016). 会計事務所で働くパート従業員を対象とした参加型マネジメント 行動分析学研究, 31, 2-14. https://doi.org/10.24456/jjba.31.1_2
- 島宗 理 (2019). ワードマップ 応用行動分析学--ヒューマンサービスを改善する行動科学-- 新曜社
- Wilk, L. A., & Redmon, W. K. (1998). The Effects of feedback and goal setting on the productivity and satisfaction of university admissions staff. Journal of Organizational Behavior Management, 18, 45-68.