自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

人はなぜ同じ間違いを繰り返すのか


 160万回以上再生されているこの動画。間違いの原因を人に帰属させているコメントが多いけど,まさに個人攻撃の罠である。

 この人,行き先をよく見る行動を自発することなく,4回目のトライでガラスの向こう側へ移動できている。部分強化,FR4である。次回もがんがん行くかもしれない。

 行き先を見る行動が自発されたとしても,ガラスの透明度が高く,開口部と閉口部の違いがほとんどなく,観察行動が強化されないかもしれない。実は法政大学市ヶ谷キャンパスに新しく建ったばかりの大内山校舎1Fがまさにこんな感じで,自分も何回か同じような衝突を繰り返している。

 この場所でぶつかっているのはこの人だけではないだろうに,おそらく見かけのデザインが優先され(美しさ > わかりやすさ),そして間違いは間違いをする人に原因があるとみなされるために,閉口部を示すシールを貼るといったアイディアなどは"野暮"と切り捨てられるのだろう。

 動画をみると吹き出してしまうけど,笑い事ではない。こういう現象は生活のあちこちに転がっていて,いずれ大きな事故になる危険がひそんでいるのだから。 間違いは間違いを起こす原因を見つけて修正する行動の弁別刺激とすべきである。

 ちなみに「間違いをする」という行為はオペラントとして定義すべきではない(弊著『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか』参照)。間違いには色々あり,それぞれ制御変数が異なり,制御変数が異なれば修正方法も異なるからである。