自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

選択による「楽しさ」:これも制御幻想の一種かも。

Susan Friedman先生から教えてもらったオモシロ動画その2。

日本にも(うちの近所のサミットにも)ペットボトルを返却してVRスケジュールで「当たり」(サミットのポイント)がでる自販機のような機械はあるけど、このマシンには空き缶を入れるスロットが6つあって、投入者に“選択の機会”を提示しているところに特徴がある。

おそらくはスロットの位置と当たりには何の関係もないのだろうが、それでも投入者は「迷って」「考えて」「選んで」いるように見える。そしてそれを「楽しんで」いるようにも見える。

人が何らかの意思決定をするときに、うまくいく確率を過大評価してしまう傾向を制御幻想と言う。選択肢があることで過大評価してしまうのは日常的にもよく見られる現象だ(たとえば、宝くじの当選確率はどこで買っても同じなのに自分で場所を選んで購入したり、その方が当たる確率が高いと思い込んだり)。

上の選択式の空き缶回収マシンで投入者が当たりの確率を過大評価しているかどうかはわからないが、当たりかはずれかをサミットのマシンよりも楽しんでいることに間違いはないだろう。もちろん、新奇性という要因もあるのだろうけど。

行動分析学では選択肢の数あるいは選択肢があるかどうかが好子として機能するかどうかが実験的に検討されてきた。並立連鎖スケジュールを使った研究の多くでは、一般的に、選択の機会がある選択肢が選ばれる傾向にあることが示されてきた。しかし、その一方で、リスク回避、曖昧性の回避などの要因で、選択の機会を制限するような選択をする傾向も確認されている。

しかし、これらの研究はどれも選択行動とそれを直接強化している変数を検討したものであり、選択の機会が生みだす(のかもしれない)副次的な「楽しさ」についてはあまり研究がなされていない。強化を最大化する選択と「楽しい」選択が必ずしも一致しないこともあるわけで(もちろん「楽しさ」を強化に含めると、こうした議論は論理的に成立しないのだけれども、「楽しさ」は副次的な反応で、強化力はないと仮定した場合)、人生や社会を楽しくする(社会的妥当性を高める)介入を探すという意味ではもっと検討されてもいいのではないかと思う。

参考文献

  • Catania, A. C., & Sagvolden, T. (1980). Preference for free choice over forced choice in pigeons. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 34, 77-86.
  • Hayes, S. C., Kapust, J., Leonard, S. R., & Rosenfarb, I. (1981). Escape from freedom: Choosing not to choose in pigeons. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 36, 1-7.
  • Ono, K. (2004). Effects of experience on preference between forced and free choice. Journal of Experimental Analysis of Behavior, 81, 27-37.
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  • 増田真也・坂上貴之・広田すみれ (2002).  制御幻想とは何か? : 実験操作と測定方法の検討  心理学評論, 45(2), 125-140.
  • 増田真也・坂上貴之・広田すみれ (2002).  選択の機会が曖昧性忌避に与える影響 : 異なる種類の曖昧性での検討  心理學研究, 73(1), 34-41.