自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

『コーチングの技術』

英語で「buzzword」とは「実業家・政治家・学者などの使うもったいぶった言葉」(研究社「新英和辞典」)のことだが、最近ブームの「コーチング」は、まさに「buzzword」にあたる。

もともとは主にスポーツの指導を意味していた「コーチング」を、「エンパワメント」とか「ワークアウト」とか「ファシリテーション」など、それっぽいカタカナ用語で武装して、企業におけるリーダーシップ研修としてまとめ上げたものが多い。日本では、欧米のコンサルタントたちがトレーニングプログラムとして開発したものを、輸入したり、フランチャイズしたりしている人が多いのではないだろうか。最近ではそれがさらに派生して「親子関係のコーチング」なるものまで見受けられる。

コーチングって行動分析学と関係あるんですか?」といった質問を受けることがあるのだが、それは「コーチング」が何を意味しているかによる。

「中学校で運動部の指導をしているのですが、コーチングに行動分析学が活用できますか?」という質問なら、答えはYesである。スポーツ行動分析学という領域があって、研究・実践がなされている。日本語ですぐ読める図書としては、『コーチング−人を育てる心理学』武田建著(誠信書房)がお勧めである。

「いま流行っている“コーチング”って、行動分析学の原理を使っているんですか?」という質問なら、答えはYes/Noだ。そういうふうにプログラムされている研修もあれば、そうでないのもありそうだ。また、行動分析学的なプログラムでも、開発者やトレーナーがそれを自覚しているかどうかは、また別のことである。

コーチングの技術』は、アメリカやイギリスでコーチングを勉強し、日本でコンサルテーションをしている著者による、とても分かりやすいガイドブックだ。コーチングの技術がとても具体的な行動としてリストアップされている。

実は私も、米国の、行動分析学をベースにしたとあるコンサルティング会社で、3日間にわたるファシリテーターレーニングを受講したことがある。そのときの内容とほぼ同じ標的行動を含んでいる。元になっているプログラムが同じなのかもしれない。

それだけではない。『コーチングの技術』では、『うまくやるための強化の原理』カレン・プライア(二瓶社)が引用されており、「好子」という用語まで使われている。

行動分析学コーチングの両方に興味を持つ人へお勧めの1冊である。

コーチングの技術―上司と部下の人間学コーチングの技術―上司と部下の人間学
菅原 裕子

講談社 2003-03
売り上げランキング : 4,083
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools