自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

随伴性ダイアグラムで視考する

最近のマイブームは“視考”(Visual Thinking)というコンセプト。

スタンフォード大学のMcKim博士が“Experiences in Visual Thinking”という著書で提唱したアイディア(McKim, 1972)で、「視ること」「描くこと」「考えること」が知的生産活動を支える3つの要素であるとする思想だそうな(石井, 2006)。

行動分析学で人の行動(ココロと言ってもいいけど)を読み解くのに一番役立つと思うのは、行動随伴性ダイアグラムを描いてみることだと思う。だから、学校の先生でも、ゼミ生でも、講義の受講生でも、最もマスターしてもらいたいのが、この思考法。ところが、同時に、教えるのが最も難しいスキルだったりもする。

強化や好子や弁別や分化といった基礎概念の定義をマスターするのはそれほど難しくない。ABC分析も穴埋め完成問題ならほぼ100%正解できるように教えられる。ところが、何かしらのテーマを与えて、自由に分析して“ひらめき”を得る、という課題になると、まったく身動きがとれず「難しいです」という苦情のような悲鳴があがる。

なぜだろうか?

原因のいくつかは次第に明らかになりつつある。

そもそも、ABC分析をする理由は「なぜそんな行動をするのかわからないとき」や「なぜそんな行動をしないのかわからないとき」に、その原因を推定し、解決策を立案するためである。ところが、授業や研修のプログラムは、概念理解やダイアグラム作成の正確さのにみが評価されていて(強化されるようになっていて)、このひらめきの部分を強化するようになっていない。

また、プログラム学習的にスモールステップで教えていて、ステップのかなり最初の方(穴埋め)でプログラムが終わっていて、こちらが求めているスキルとの間に飛躍がある。

また、ゼミ生(のうちの一人)から話を聞いてわかったことだが、なんと、ABC分析ワープロで、しかも表に埋めていく方法で作成しているというのだ。

これは盲点だった。自分はふだんそんなことはしてない。たいていは手書きだし、表の形さえ使わない。教科書や研修会の資料や授業で使うスライドで使っているABCの表は、あくまでプレゼン用であって、思考用ではないのだ。

というわけで、表の形にとらわれず、手書きで、紙にどんどん描きなぐりながら、追加したり、ひらめきをメモしたり、バッテンを入れたりしたサンプルをゼミ生に提示したところ、翌週、彼のABC分析は格段によくなって返ってきた。

そこで“視考”というコンセプトなのだ。

行動と環境との関係を、ダイアグラムとして描きだして、それを視ながら考えて、考えたことをさらにダイアグラムに描き込んで行く。画家が対象を描写するようなプロセスと類似の仕事だ。対象をよく観察し、キャンパスに描き込み、対象とキャンパスを比べ、違いを修正していく。

まさに「描いて」「視て」「考える」プロセスだ。

手書きの弱点は、完成品が他の人には読みにくいところ。特に私のように字がへたっぴだと、自分でさえ何を書いたのかわからなくなる。

そこで昔使っていたフローチャート作成ソフトをひっぱりだしてきた。Omniという会社のGraffleというソフト。これだとほぼ紙に描くのと同じ位の自由度で描きなぐれるし、修正も楽ちん。完成版をプレゼンにも使える。

しばらくこれで自分の“視考”がうまく支援できるかどうか試してみたい。

サンプルは、現在分析中の「信じる」ということをテーマにしたダイアグラムです。

Furikomedigram

石井 裕(2006, October). デジタルの感触:視考のツール「MacDraw」 MacPeople, 152-153.

McKim, R. H.(1972). Experiences in Visual Thinking. Brooks/Cole Publishing Company.