自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

J-ABA2007:カタニア先生の『強化の遅延,オペラント貯蔵,そしてADHD』

行動分析学界の大御所カタニア先生による招待講演では,スキナーが一時期考案していたという「オペラント貯蔵」という考え方を修正した《モデル》と,好子出現までの遅延時間による強化力の減衰勾配の違いによって生じる行動パターンによって,様々な行動現象,特にADHDをもった子どもにみられる多動や注意欠陥が説明できるのではないかという提案がなされた。

修正版オペラント貯蔵という《モデル》では,行動は好子が出現するたびに,その直前に自発されていた行動が“貯蔵”され,自発されるたびに“放出”されると考える。そして,行動から好子出現までの時間間隔が短ければ短いほどその行動は多く貯蔵され,長ければ長いほど少なく貯蔵されると考える(遅延時間による強化力の減衰勾配による重みづけ)。

非常に単純な《モデル》ではあるが,これを元にシミュレーションを組むと,いろいろな強化スケジュールにおける行動パターンをうまく予測できるということである(カタニア先生,シュミレーション結果をPC画面上の累積記録としてプレゼンしていただけど,もしかして現在の行動分析学会だと,累積記録の見方がわかる会員の割合ってそうそう高くないかもと少し不安になった)。

強化力の減衰勾配の形によって,高反応率が強化されたり,刺激性制御がうまく形成できなかったりすると考えられ,これがADHDの症状(前者が多動,後者が注意欠陥)と一致するというのがカタニア先生の主張。

感想。

修正版オペラント貯蔵については,単純なモデルで複雑なスケジュールパフォーマンスが再現できるという点は面白いと思う。でも,そういうモデルは他にもあるはずだし(ニューロネットとか),そういうモデルではもっと複雑なパフォーマンス(たとえばMTSとか)も予測できると聞く。

一昔前,情報処理的認知心理学でも,行動がうまく予測できさえすればどんな計算式でもいいのか,それとも最終的には生物学的なメカニズムと対照させるため,神経生理学的な知見とマッチしそうなモデルがいいのかという議論があった。それと同じで,複雑な行動の予測力と生物学的な妥当性という2つの基準を用いたときの,他のモデルとの性能比較を知りたくなった。

ADHDの症状についての再現性については若干の疑問が残った。このモデルだと,行動や好子の種類に関係なく,高反応率の自発や刺激性制御の成立しにくさが適用されなくてはならないけど(そういう説明はなかった),ADHDの子どもたちを観察していると,高反応率の行動にはかなり偏りがある。飛び跳ねたり,きょろきょろしたりする子どもは多いけど,たとえば自閉症をもった一部の子どものように,棚に並べてあるものをさわっていったり,おもちゃを並べたりという行動はあまり見られない。それに,確かに机に向かって書取りに長時間集中するのが苦手な子どもでも,ポケモンならいつまでも遊んでいたりする。

カタニア先生が引用していた基礎研究(即時の少量の好子 vs 遅延後の大量の好子の選択場面)でも,最初は遅延時間を同じにして(すると大量の好子を選択する),徐々に遅延時間を延ばしていくと遅延後の大量の好子を選べるようになることがあることがわかっている(セルフコントロールの確立)。その場合,強化力の減衰勾配の形がそのような手続きによって変わったと考えるだろうか。そしてそのような効果はその個体の他の行動や好子に関わる強化力の減衰勾配にどのような影響を与えると考えるのだろうか?

行動や好子の種類による差(があるのかないのか),強化力の減衰勾配の形は可変なのか,可変ならどのような手続きで変わるのか,などが,おそらく臨床場面で欲しい情報だと思う。

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A. Charles Catania

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