自然と人間を行動分析学で科学する

島宗 理@法政大学文学部心理学科【行動分析学, パフォーマンスマネジメント, インストラクショナルデザイン】

北京ABAレポート#3:流暢性訓練への疑問?

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Studying Fluency: Applications in Mathematics and Environmental Education. DR. PHILIP CHASE (West Virginia University)

行動の頻度を高める指導をすることで流暢なパフォーマンス(fluency)が得られる--というのがPrecision Teachingの考え方だ。「流暢なパフォーマンス」とは保持され(retention)、妨害刺激などからの耐性が強く(endurance)、安定していて(stability)、応用がきき(application)、その行動や他の流暢な行動を組み合わせた、より複雑な新しい行動を生み出す(adduction)とされ、こうした特性の頭文字をとってRESAAを目標とした指導プログラムが組まれている。

Precision Teachingは行動分析学のメインストリームとはやや独立した形で発展し、現場の教師を中心にした独自のコミュニティを形成している(Standard Celeration Society)。ジャーナル(Journal of Precision Teaching)も発刊している。

Chase先生は実験的行動分析学の立場から、流暢性トレーニングの効果について実証的研究を進めている。今回の発表ではそのレビューからいくつか問題提起をされていた。

・Precision Teachingでは、頻度の目標設定やグラフ作成、1分間トレーニングなど、さまざまな手続き(独立変数)が組み合わされて使われている。個々の手続きは「行動的」で他の研究でも効果が認められているものであり、パッケージとして効果があることは不思議ではない。

・しかし、個々の手続きの効果、特にRESAAとの関係を実験的に示した研究はほとんどない。

・また、パッケージとしての効果も、Precision Teachingのコミュニティ、あるいは行動分析学の外の、より広い「教育」や「心理」のコミュニティに受け入れられる形のデータとしてはまとめられていない。

・行動の「科学」という視点からすると、RESAAの各指標を従属変数にして個々の指導手続を独立変数とし、変数をしっかり制御した実験を進める必要がある。

・効果のある指導プログラムを普及させるという視点からすると、グループ比較デザインを使って、統計で効果を示すような研究を行い、行動分析学以外の教育・心理の学会誌で発表すべきである。

この分野でもっと実験的な仕事が必要であることには大賛成。マッチングやってる人の10人に1人でいいからこういう研究してくれたらいいのに。

グループ比較デザインうんぬんについては懐疑的。たとえば、日本なら行動分析学的研究を「心理学研究」とか「教育心理学研究」とかに掲載するためだけに参加者の数を増やして群間比較の実験をすることになるけど、たとえ受理され掲載されたとしてもそれが学校現場への導入にインパクトがあるとは思えない。

ちなみにChase先生らのレビューは以下の論文に収録されています。

Doughty, S.S., Chase, P.N., and O'Shields, E. M. (2004) Effects of Rate Building on Fluent Performance: A Review and Commentary. The Behavior Analyst, 27, 7-23.

ただしこの論文に対しては以下の批判的論文も出ていますので、両方読んだ方がいいでしょうね。

Kubina, R. M. (2005) The Relations Among Fluency,Rate Building, and Practice: A Response to Doughty, Chase, and O'Shields (2004). The Behavior Analyst, 28, 73-76.

(画像は日大の眞邉一近先生からいただきました)